首都圏の中の北陸ゆかりの地
「乃木大将と辻占売少年像」乃木公園・旧乃木邸(東京都港区赤坂8丁目11)

(写真上:乃木大将と辻占売少年像( 旧乃木邸)<*2023年8月23日午後訪問撮影>

乃木大将と辻占売少年像 <案内板より>
今に伝えられる「乃木大将と辻占売り少年」の話は、明治24年(1891)、乃木希典が陸軍少将の時代、用務で金沢を訪れた折りのことです。希典は金沢で偶然、当時8歳の今越清三郎少年に出会います。今越少年は、辻占売りを営みながら一家の生計を支えていました。この姿に感銘を受けた希典は、少年を励まし、金弐円(2円)を手渡しました。今越少年はこの恩を忘れることなく、努力を重ね、金箔業の世界で大きな業績を積み上げました。
この銅像は、こうした乃木希典の人となりを伝えるものとして、昭和43年(1968)に旧ニッカ池(六本木6丁目)の縁に造立されましたが、このたび旧ニッカ池周辺が整備されることとなり、希典所縁のこの地に移建されました。 平成13年(2001)9月

(写真上:今越清三郎翁出生の地( 石川県金沢市主計町2)<*2023年3月17日午後訪問撮影>

石川県金沢市の浅野川沿いの浅野川大橋のたもとの主計町入口に、「今越清三朗翁出生の地碑」が建立されているが、この今越清三郎が「乃木大将と辻占売少年像」の辻占売少年。今越清三郎(1883~1974)は明治16年(1883年)金沢の主計町で名家の家に生まれたものの、幼くして父が死亡し母が行方知れずと両親と死別し、残された祖母と幼い弟妹を養うため、昼は魚、夜は辻占(占い紙片が封じ込まれた各種
菓子(煎餅,豆菓子,昆布菓子等)で金沢では,辻占が新年の菓子の象徴として人気があった)売りをして貧困な生活を支えていた。

清三郎が8歳の時、たまたま金沢を訪れた陸軍大将乃木希典(1849~1912)と巡り合い、激励を受けたことで発奮しやがて金箔師として大成した。そして昭和41年(1966年)彼の作品が滋賀県の無形文化財に指定され、昭和49年(1974年)に、滋賀県の彦根市立病院で91歳で亡くなった。その後昭和54年(1979年)3月18日に浅野川左岸主計町入口の元の跡前に、氏の遺徳を偲び「乃木将軍と孝子辻占い少年」の碑が建立。

今越清三朗の祖父は、加賀藩前田家に仕えた御殿料理人で禄を拝領。明治維新後、主計町一番地で料理屋を開き「御典料理」と呼ばれ大いに繁盛したとのことだが、明治21年(1888)父清一郎が死亡し、母は四軒あった家作を売り払い行方知れずとなり、5歳の清三朗と4歳と2歳の弟妹と祖母が残される。そのため、清三朗は昼の魚売りに加え、6歳で毎夜、浅野川沿いの地元ではきまりが悪いため、わざわざ遠い犀川沿いの町に出て辻占も売り生計を助けていたが、明治24年(1891)、偶然にもある夜に県庁前で、乃木将軍に出会い,少年の事情を知った乃木将軍は、当時の金で2円を与え、少年を励ます。今越清三郎は明治 22 年(1889)の正月から辻占売りの商売を始め,乃木に遭遇したのは明治 24 年(1891)の 3月 18 日の夜だったと述べている.

乃木将軍とのエピソードが新聞に取り上げられ、学校の悪童達の知るところなり、いじめられ、入ったばかりの小学校に行きづらくなり、わずか20日(8日ともいわれている)で清三朗は学校も辞め、そこで以前から話の有った金箔を習うことになり、弟は孤児院へ妹は母に引き取られ、祖母はこれらのことが決まると祖母が死去。その後、清三朗は、金沢の金箔屋相木弥太郎へ奉公に入り、明治35年(1902)金沢で独立。7年目に京都へ京箔修業に出、大正2年(1913)、修業先は、京都馬町の辰見新太郎で3年間、そして独立、軍隊を経て昭和2年(1927)に宮内省より、王座の金屏風にようする箔の御用を拝命。昭和4年(1929) 伊勢神宮に金箔5万枚の御用。昭和6年(1931)大阪城再建に大量の金箔を納入。昭和25年(1950) 金閣寺再建の金箔ご用命。昭和41年(1966)滋賀県文化財保護条例により「無形文化財」に指定される。昭和48年(1973) 滋賀県甲西町の屋敷及び土地約300坪一切を町に寄付。

一方、乃木将軍と辻占売り少年のエピソードは、繰り返し語られ、大正、昭和にかけて美談として、教科書、浪曲、講談、映画として取り入れられ、多くの国民の知るところとなり、昭和7年(1932)浪曲のレコード「乃木大将と辻占売り」はは寿々木米若により浪曲ベストセラーとなり、昭和13年(1938)には浪曲映画も制作。戦後は、テレビ放送や新聞報道で、更に全国に知れ渡ることになり、昭和37年(1962)には、NHK「私の秘密」に出演。昭和40年(1965)函館の自衛隊に「乃木将軍と辻占売り少年」の銅像が立てられ、
昭和43年(1968)には、東京・麻布の旧毛利邸跡に「乃木将軍と辻占売り」の銅像が建立され、この銅像が2001年に旧乃木邸に移された。 

参考文献:「今越清三朗翁伝~ 乃木将軍と辻占売りの少年~」(中央乃木会叢書、1978年年9月刊)

(写真下: 旧乃木邸(東京都港区赤坂8丁目)<*2023年8月23日午後訪問撮影>

(写真下: 旧乃木邸と隣接する乃木神社(東京都港区赤坂8丁目)<*2023年8月23日午後訪問撮影>


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