北陸の旅紀行・エッセイ・写真集 第1回 歴史紀行ガイド「明智光秀の足跡をたどる旅」(「明智光秀の足跡をたどる旅」製作委員会)

歴史紀行ガイド「明智光秀の足跡をたどる旅」(「明智光秀の足跡をたどる旅」製作委員会 著、東京ニュース通信社、2019年11月発行) 

明智光秀を主人公とするNHK大河ドラマ「麒麟がくる」が、NHK大河ドラマ第59作として、2020年1月19日から2021年2月7日まで放送されたが、NHK大河ドラマ「麒麟がくる」放送開始直前の2019年11月に、歴史紀行ガイド「明智光秀の足跡をたどる旅」が発行されている。残念ながら、NHK大河ドラマ放送期間中は、コロナ禍で旅は大きく制限されてしまったものの、情報量が多く写真や関連データ満載の本書は、コロナ禍明けで、これから動きだすであろう、明智光秀ゆかりの地を訪ねる旅に大いに参考になるはずだ。

残された史料も少なく、特に前半生は謎に包まれている明智光秀ではあるが、関わりの深い土地といえば、本書では大阪府、奈良県・和歌山県にも触れているが、岐阜県、福井県、滋賀県、京都府、兵庫県が挙げられよう。出生地については諸説あるものの、美濃国で生まれ育ったと言われ、斎藤道三親子の争いに巻き込まれ、明智城(岐阜県可児市)を追われるまでの約30年の前半生を過ごした岐阜県。明智城を追われ越前へ逃亡し明智家再興を目指し雌伏の時代を過ごした福井県。比叡山の焼き討ちでの功績が認められ織田信長より近江国滋賀郡を与えられ琵琶湖のほとりに初めての城となる坂本城を築いた滋賀県。本能寺をはじめとする京都市だけでなく丹波平定の拠点として明智光秀が丹波亀山城を築いた亀岡市、丹波国の平定に成功し丹波国の新たな拠点とするために福知山城の礎を築いた福知山市、山崎合戦の大山崎町などの京都府。それに丹波攻略での黒井城や八上城のある丹波市、丹波篠山市がある兵庫県だ。

このうち、美濃の明智城を追われ明智家再興を目指し雌伏の時代を過ごした越前(北陸の福井県)も明智光秀の生涯において重要な土地だ。油坂峠を越え美濃街道と思われる隣国の美濃から越前へのルートも気にはなるが、まずは越前に逃れ浪人中の明智光秀が朝倉家士官の道を開いた寺といわれる称念寺(福井県坂井市丸岡町)。ちなみに、暦応元年(1338年)越前国での「藤島の戦い」で戦死した新田義貞を弔うため、500回忌となる天保8年(1837)に、第10代福井藩主の松平宗矩が称念寺の境内に新田義貞公墓所を建立。

福井県福井市東大味町には、400数年も地元住民が守り続けた黒い木彫りの光秀像を祀る明智神社が、光秀の屋敷跡地に建てられ、本堂などはなく小さな祠が建っている。地元の住民たちは光秀を「あけっつぁま」と親しみを込めて呼んでいて、黒塗りされた烏帽子姿の光秀の木彫り彫像は高さ13cmほど。光秀の命日にあたる6月13日は、福井市明智神社奉賛会が地元住民を中心に毎年祭礼が行われ、年1回の光秀公座像が公開される。細川ガラシャ(明智珠)は永禄6年(1563)、光秀の三女として東大味で生まれたと言われているが、称念寺門前で光秀が寺子屋をしていた時に生れたという説もあり。

称念寺(坂井市丸岡町)、明智神社(福井市東大味町)以外に、本書では、福井県の箇所では、国の重要文化財、特別史跡、特別名勝に指定されている、戦国大名朝倉氏の城下町跡の貴重な歴史遺産、一乗谷朝倉氏遺跡(福井県福井市城戸ノ内町)が取り上げられているが、明智光秀は、ここで越前朝倉家当主の朝倉義景に仕え、足利義昭と出会ったとされている。

明智光秀が織田信長に仕えた後のゆかりの場所としては、北ノ庄城址・柴田公園(福井県福井市中央)。天正元年(1573)朝倉氏を滅ぼした織田信長は、越前支配のため朝倉氏の旧臣・前波長俊を一乗谷の守護代に命ずるとともに、明智光秀や羽柴秀吉らを北の庄にあった朝倉土佐守景行の館に配置。その当時は、まだ城郭はなく、簡易な砦程度のもので会ったと考えられていて、明智光秀らはここで戦後処理を行っていたという。織田信長が義弟の浅井長政のまさかの裏切りで窮地に立たされた戦国史に残る元亀元年(1570)の金ケ崎城の戦いでは、信長の後衛部隊を任されたのが、木下藤吉郎秀吉、池田勝正、明智光秀ら。金ケ崎城跡は、福井県敦賀市金ケ崎町。

写真や文章での説明はないが、本書掲載の福井県地図上では、他に、天正元年(1573)織田信長が朝倉攻めの際の本陣とした場所として龍門寺城跡(福井県越前市本町)、細川藤孝(1534~1610年)の妻は熊川城主・沼田氏の娘であることから、熊川城跡(福井県若狭町熊川)、更に元亀元年(1570)の織田信長による越前侵攻の際、徳川家康と明智光秀が宿泊したと伝わる熊川宿得法寺(福井県若狭町熊川)の3か所が記されている。

明智神社(福井県福井市東大味町)
越前・朝倉氏の鉄砲指南役となった明智光秀は、数年間を一乗谷への入り口となる東大味で妻子とともに暮らした。その後、足利義昭を15代将軍として擁立すべく奔走し、その過程で織田信長の家臣となっている。
天正3年(1575年)、織田信長は越前一向一揆の掃討を家臣の柴田勝家に命じ、越前の大半は焼き討ちや虐殺の。かつて暮らした東大味に戦禍が及ぶのを恐れた明智光秀は、柴田勝家と彼の家臣である勝定に安堵状を出させ、東大味の住民たちの命を救ったという。
逆臣となった光秀だが、彼に大恩を感じた「土井の内(光秀の屋敷跡地)」の3軒の農家は、400年以上もの間、木彫り像の光秀を密かに守り抜く。そして、明治19年(1886年)、屋敷跡地に小さな祠を建て、「明智神社」として木彫りの光秀像を祭ることにした。

称念寺(福井県坂井市丸岡町長崎)
弘治2年(1556年)、斎藤道三とその子・義龍との争いに巻き込まれ、明智城落城とともに美濃国から越前国へ逃亡した明智光秀。明智家再興を目指して、母方の縁を頼り、逃れた先が称念寺。浪人中であった光秀一家は貧しく、称念寺の門前に寺子屋を開きなんとか生計を立てていたという。
称念寺は「遊行」と呼ばれる、旅をしながら布教活動をするのが特徴の宗派で、光秀はその僧から各地の情報を得ていたと言われている。やがて、称念寺住職の口添えで、朝倉氏の家臣と酒宴を開く機会を得た光秀だったが、資金の工面に窮していた。それを見かねた妻・熙子(ひろこ)が黒髪を売ってその費用を工面するという内助の功を発揮。酒宴は大成功に終わり、光秀は士官を果たした。このエピソードは「黒髪伝説」として後世に伝えられている。
「月さびよ 明智が妻の 咄(はなし)せむ」。この句を詠んだのは、俳聖・松尾芭蕉。「奥の細道」の旅の途中に越前国に立ち寄った際に聞いた光秀と熙子のエピソードにちなんだもの。才能がありながら出世ができない門弟の島崎又玄の妻に贈ったとされている。

明智光秀は、享禄元年(1528)に美濃国で生まれたと言われているが、出生年にも諸説があり、永正13年(1516)に生れたという話もあり、岐阜県内の出生地の候補場所も、明智城(岐阜県可児市)、明知城(岐阜県恵那市)、美濃源治・土岐家の発祥の地でもある一日市場八幡神社(岐阜県瑞浪市)、中洞白山神社(岐阜県山県市)、多羅城(岐阜県大垣市上石津地区)と5か所にも及び、更に近江国多賀(滋賀県多賀町)の佐目館(明智屋形)説も登場。出生だけでなく最期がいつなのかについても、天正10年(1582年)6月13日に起こった羽柴秀吉との山崎の戦いで敗れ自害したという説が有力だが、それ以外にも諸説唱えられている。明智光秀の首塚も、本物の首塚と目される浄土宗の総本山・知恩院の近くの明智光秀首塚(京都府京都市東山区三条通)、別名「光秀寺」とも呼ばれる谷性寺(京都府亀岡市)、光秀三女の細川ガラシャによって供養されたという首塚の残る盛林寺(京都府宮津市)と、3つ存在すると言われている。

目 次
駆け足で振り返る 明智光秀の生涯
明智光秀の生涯
岐阜県
1 岐阜城(旧・稲葉山城) (岐阜県岐阜市金華山)
2 明智城跡 (岐阜県可児市瀬田)
3 天龍寺 (岐阜県可児市瀬田)
4 明知城跡 (岐阜県恵那市明智町)
5 龍護寺 (岐阜県恵那市明智町)
6 一日市場八幡神社 (岐阜県恵那市土岐町)
7 桔梗塚 (岐阜県山県市中洞)
福井県
8 一乗谷朝倉氏遺跡 (福井県福井市城戸ノ内町)
9 明智神社 (福井県福井市東大味町)
10  称念寺 (福井県坂井市丸岡町)
11  金ヶ崎城跡 (福井県敦賀市金ケ崎町)
滋賀県
12  坂本城跡 (滋賀県大津市下阪本)
13  比叡山延暦寺 (滋賀県大津市坂本本町)
14  安土城跡 (滋賀県近江八幡市安土町)
15  西教寺 (滋賀県大津市坂本)
16  明智塚 (滋賀県大津市下阪本)
17  聖衆来迎寺 (滋賀県大津市比叡辻)
18  盛安寺 (滋賀県大津市坂本)
京都府
19  本能寺 (京都府京都市中京区寺町通御池下ル下本能寺前町)
20  丹波亀山城跡 (京都府亀岡市荒塚町内丸)
21  福知山城 (京都府福知山市字内記)
22  愛宕神社 (京都府京都市右京区嵯峨愛宕町)
23  谷性寺 (京都府亀岡市宮前町猪倉土山)
24  小畠川 (京都府京都市西京区樫原宇治井西町)
25  明智光秀胴塚 (京都府京都市山科区勧修寺御所内町)
26  明智光秀の首塚 (京都府京都市東山区三条通白川橋下る東側梅宮町)
27  明智藪 (京都府京都市伏見区小栗栖小坂町)
28  境野1号墳(京都府乙訓郡大山崎町)・恵解山古墳(京都府長岡京市勝竜寺)
29  盛林寺 (京都府宮津市宇喜多)
30  御霊神社 (京都府福知山市西中ノ町)
31  山崎合戦古戦場碑 (京都府乙訓郡大山崎町字円明寺小字松田)
32  慈眼寺 (京都府京都市右京区京北周山町上代)
33  明覚寺 (京都府福知山市字呉服)
34  法鷲寺 (京都府福知山市字下紺屋)
35 正眼寺 (京都府福知山市字寺)
36 照仙寺 (京都府福知山市堀上高田)
37 観瀧寺 (京都府福知山市口榎原小字上條)
38 瑞林寺 (京都府福知山市夜久野町板生)
39 天寧寺 (京都府福知山市字大呂)
40 薬師寺 (京都府京都市右京区京北細野町上之町)
41 南禅寺金地院「明智門」(京都府京都市左京区南禅寺福地町)
42 妙心寺 (京都府京都市右京区花園妙心寺町)
大阪府
43 光秀寺 (大阪府高石市千代田)
44 石山本願寺 (大阪府大阪市中央区大阪城)
兵庫県
45 黒井城跡 (兵庫県丹波市春日町)
46 興禅寺 (兵庫県丹波市春日町黒井)
47 八上城跡 (兵庫県丹波篠山市八上上字高城山)
48 金山城跡 (兵庫県丹波篠山市追入)
49 祖父祖父堂 (兵庫県丹波市青垣町栗住野)
50 妙法寺 (兵庫県丹波市青垣町小倉)
51 円通寺 (兵庫県丹波市氷上町御油)
52 誓願寺 (兵庫県丹波篠山市魚屋町)
53 柏原八幡神社 (兵庫県丹波市柏原町柏原)
和歌山県・奈良県
54 高野山 奥之院 (和歌山県伊都郡高野町高野山奥の院)
55 信貴山城跡 (奈良県生駒郡平群町信貴山)

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