歴史舞台としての中国西南部・南部 第1回「秦の始皇帝と越(百越)族」

歴史舞台としての中国西南部・南部 第1回 「秦の始皇帝と越(百越)族」

中国史と百越(戦国末期・秦代)
初の中国統一を果たした秦の始皇帝と、華中・華南に広く分布していた越族との関係
 (*画像だけは、Chat GPTにて生成)

戦国七雄の一国であった秦の王・政は、紀元前230年に韓を滅ぼすことに始まり、僅か9年で戦国七雄と称された他6ヶ国(韓・趙・魏・楚・燕・斉)を征服。紀元前221年に中国統一を完成し、ここに始皇帝と号することになる。貨幣・度量衡・文字などの統一や道路網の整備など数々の統一政策を実行に移し、中央集権の巨大統一国家「中国」を出現させたわけだが、一方、『漢書』にも記されているように、江南から交趾(現在の北ベトナム)にいたる広大な地域には、越族系の多くの種族が分布していた。

紀元前223年に滅亡した「楚」の故地の江蘇・浙江地方には、秦の直属として、新たに東海郡と会稽郡を置き、更に始皇帝は、50万もの大軍に命じ、越族の居住地の一つでもあった今の広東省・広西省等の中国南部に進出することを決める。当時も、越人が東南アジアから中国本土にかけての海洋交易で潤っており、秦にも南方や西方の産物が持ち込まれていた。前漢時代に記された「淮南子」や「史記」李斯列伝によれば、秦の始皇帝は、越地方の犀角や象牙と、翡翠などの宝石の南方の産物を好んだようで、これが南方攻略の一つの理由とも言われている。

南嶺(湖南と広東の省境を東西に走る山脈)を越えて華南に軍隊を派遣しようとするが、始皇帝の南方への攻撃は難航を極め、すばやい軍の展開と補給路の確保が求められていた。このために、湘江(桂林の北東にある興安県から北東に向かって流れ、揚子江へと注ぐ川)と、灕江(桂林から南へ流れ、南シナ海へと注ぐ川)を運河で結ぶことになる。約40kmの陸地を隔てるだけであったが、両河川の間には、高低差があり、この工事には、いくつもの水門で徐々に水位を調節するという高度な技術が要求された。工事は次々と失敗を繰り返したが、最終的に、「禄」という人物が、26もの水門で水位を調節するシステムを完成させ、紀元前214年、難工事の末、この運河は開通した。(現在でもこの霊渠は残されているが、堰を作り湘江の水位を上げることで高低差を解決し水門は必要なくなっている)

東湘江から灕江へと一気に川を下っていった秦の軍勢が、陸地から進撃する軍を擁護し、秦は、百越のなかでも古くから海洋交易の拠点として繁栄を誇っていた番禺(広東、現在の広州)を陥れる。紀元前214年、桂林・象・南海の3郡を置いて、その支配下に組み入れる。しかし、その支配も僅か数年で瓦解する。秦末の混乱期に、南海郡の官吏(南海郡尉)に派遣されていたる趙佗が独立し、主要な民族が越族である「南越国」を打ち立てることになる。一方、現在の浙江省南部、福建省地方には、それぞれ東甌国、閩越国という越族系諸族が興した国があり、秦の始皇帝はこれらの国の存続を認めず、現在の福建の地に、閩中郡を新設したが、名目だけのことで、秦の支配はこの方面には及ばなかった。尚、古代雲南地方については、その史的動向が文献資料から明らかになるのは、秦の始皇帝の時代から更に100年ほど後の前漢・武帝の時代の紀元前2世紀後半となる。

<*主たる参考文献>
・「NHKスペシャル  始皇帝」(NHK取材班、NHK出版、1994年)
・「日本の古代3  海をこえての交流」(大林太良 編、中央公論社、1986年)

<関連ワード>
・秦の始皇帝(紀元前259年~前210年)
戦国・秦の王(即位 紀元前246年)で、前221年、中国を統一し最初の皇帝となる。
・秦の中国統一
紀元前221年、統一完成。9年間で6ヶ国を滅ぼす。30歳で覇業達成。
韓滅亡(前230年)、趙滅亡(前228年)、魏滅亡(前225年)、楚滅亡(前223年)、燕滅亡(前222年)、斉滅亡(前221年)
・秦の郡県制
秦の始皇帝は中国を統一後、全国を36の郡に分け、郡の下に県を置く。全国が秦に直属し、秦の始皇帝が派遣する官僚によって治められた。郡の長官は郡守であり、郡の軍事を司るのが、郡尉。郡の下にある県の長官は、県令。

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