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北陸を舞台とする小説 第5回 「越前の女」(石川真介 著)
北陸を舞台とする小説 第5回 「越前の女」(石川真介 著)
「越前の女」(石川真介 著、東京創元社、1992年12月発行) <単行本>
「越前の女 東尋坊殺人事件」(石川真介 著、光文社文庫<光文社>、2001年8月発行) <文庫本>
<著者紹介>石川真介(いしかわ しんすけ>(単行本・文庫本には著者紹介記載なし)
1953年、福井県鯖江市生まれの推理作家。本格ミステリーとの出会いは、福井県鯖江市立神明小学4年の時で、福井県鯖江市立中央中学1年から推理小説家・鮎川哲也(1919~2002)に傾倒。東京大学法学部法律学科卒。トヨタ自動車に勤務しながら執筆活動を開始。1991年にデビュー作『不連続線』で第2回鮎川哲也賞を受賞。錯綜したストーリーと堅牢な構成、女性の数奇な運命と斬新な社会テーマ、丹念な現地取材に基づくローカル描写とグルメ、そして奇抜なアリバイ崩しの長編旅情ミステリーを得意にしている。トヨタ自動車に40年間勤務。日本推理作家協会会員
本書は、1991年にデビュー作「不連続線」で第2回鮎川哲也賞を受賞した福井県鯖江市出身の推理小説作家、石川真介氏による「不連続線」に続く長編第2作で。翌1992年12月に東京創元社から<黄金の13>シリーズの一冊として書きおろし刊行された長編旅情ミステリー。デビュー長編の『不連続線』は、事件関係者の過去に福井県が大きく関わっていたものの、事件現場は名古屋市で展開されていたが、本書は、本書タイトル「越前の女」通り、波乱の人生を送った福井県の3代の親娘の女性たちを中心に、全編、福井県各地を舞台として繰り広げられ、福井の方言も随所に登場するサスペンス。単行本での目次の第1章と終章のタイトルは「三人の女」「生きて行く越前の女」とあり、祖母・リョウ、母、京子と亜紀と、3代の親娘の越前の女性が主人公と分かる。
まず福井県南条郡河野村(2005年1月1日に南条町、今庄町と合併し南越前町が新設されて河野村は廃止)生まれ育ちで河野の村から一度として離れたことのない明治39年(1906年)生まれの祖母のリョウの話から物語は始まる。リョウが18歳の大正13年(1924)12月、河野村糠(ぬか)で起った特務艦関東の殉難事件で人肌救助で活躍。人肌救助の後に地元で漁師の妻となり、昭和2年(1926年)娘の京子を生むも、蟹を採りに出かけた漁師の夫を、リョウが30歳の時に海で亡くし、一人娘を育て嫁に出しながら、河野で漁業に携わり、細々とした雑用係を経て75歳で魚商売から身を引き、河野の村営駐車場の料金徴収係となり、84歳となる1990年(平成2年)も1人で河野で暮らしている。
そして、そのリョウの一人娘の京子の話が続く。京子は昭和2年(1926)に河野村に生れるも9歳の時に父親に死別。河野村立高等女学生の昭和17年(1942)5月、国民総動員計画が実施され福井市内にある軍事皮革工場へ動員され生まれ育った河野を離れる。戦争末期に皮革工場から軍用人絹の製造工場に移り、18歳の夏、福井市の足羽山の麓で終戦を迎える。戦後もそのまま紡績工場に残り福井市内の寄宿舎で暮らしていたが、21歳の春(1948)紡績工場の製造現場から事務部門へ配転し、生産担当副社長の秘書に抜擢され、秘書になってわずか3カ月目で副社長の甥との縁談話が京子にもたらされる。特別に休暇が与えられた見合前日の日が昭和23年(1948)6月28日。その日の午後4時過ぎ、福井市内で京子は福井大地震に見舞われ、そこで壮絶な体験をする。
福井大地震で京子の勤務先の紡績会社は壊滅的な打撃を受け、間もなく解散。直属の副社長は福井県鯖江市にある眼鏡枠製造会社の技術担当副社長として招かれ、京子も秘書として同行することになる。一方、見合いをする予定だった副社長の甥は震災を無事生き延び、改めて見合いの段取りを調整していた矢先の昭和23年(1948)7月25日、九頭竜川を襲う記録的な集中豪雨で福井県の土木技師として堤防の強度確認中に突出水に呑まれて殉職。そして福井大地震から1年後、副社長が病気で退任してから、副社長の紹介で京子は22歳で結婚。相手は10歳上で武生駅のすぐ裏にある旅館を経営で京子も旅館の女将として働き、結婚の翌年(1950年)亜紀と名付ける娘が生まれるも、京子が26歳の時、昭和28年(1953年)夫が急性心不全で早死。その後、昭和41年(1966年)娘・亜紀が入学した福井市の福井県立藤島高校で、福井大震災の時に京子が助けた当時20歳の男性との18年ぶりの感動的な再会が生まれる。また家業は旅館を本格的なシティホテルに発展させていく。
京子の一人娘の亜紀は、昭和25年(1950)に福井県武生で生まれ。昭和41年(1966)福井市の実在の福井県立藤島高校に入学し、高校卒業後、東京の青山学院大学に入学。大学卒業後は武生に帰り、武生市役所に就職し、ほぼ半年で結婚退職し1973年9月に福井県大野市に嫁ぐ。夫は大野市役所の広報課で勤務する土橋顕二。京子の祖母リョウ、母京子とも、若くして未亡人となり、女手ひとつで一人娘の幼子を育て上げていったが、亜紀も、結婚から3年後の25歳で夫は死亡し、3代続けて若くして未亡人となる。夫死亡後、大野市の給食センターで10年間勤め、その後、中高生対象の塾で講師として働きながら女手ひとつで一人娘を育て上げていくことになる。
ただ、亜紀の夫の場合は、昭和51年(1976)3月11日早朝、福井県の西北端にある名勝地東尋坊で全身打撲の墜落死体が発見され、未解決のまま15年近くが過ぎ、平成2年(1990年)夏から、他殺と信じる亜紀が数少ない手がかりをもとに調査を福井県大野市を中心に福井県各地の関係者を尋ね歩くなど、再び精力的に始めるが、この殺人事件の真相をめぐって、平成2年(1990年)から平成3年(1991年)夏にかけての1年間にストーリーが展開していくことになる。そして、平成2年(1990年)12月17日には、福井県河野村の海食洞の入口で、織田信長の直系子孫という触込で売り出し中のタレント・織田信芳が殺害される事件も起こり、容疑者として、福井市の酒造会社社長で郷土史家としても知られる赤塚豊明が直ぐに浮かび上がってくる。
亜紀の調査地は、事件関係者の聞き込みで、福井県大野市を中心に、福井県の丸岡町(丸岡城近く)、鯖江市(中道院近く)、武生市(現・越前市。紫式部公園近く)、今立町(小次郎公園近く)、永平寺町など、福井県各地を飛び回ってくれる。また、大正13年12月12日の福井県河野村(現・南越前町)糠での特務艦関東の殉難と村の女性たちが漂着した多くの兵士を肌身温めて救い「人肌救助」として有名になった実在の事件をはじめ、実際に起こった昭和23年(1948)6月28日の福井大地震や7月25日の福井豪雨災害も近現代の事件、更には朝倉義景滅亡や織田信長と越前一向一揆殲滅の戦国時代の出来事のことなど、歴史的事実が絡んでくる。一方で、当然ながら、事件のカギともなる大野市長選挙や大野市の新設高校の話などは完全なフィクション。
本書の終盤には、モヤモヤとした、いくつかの疑問点が解決されていくと同時に、亜紀による事件の真相探しに祖母や母が関わってくるのかが気になっていたが、全く意外な形で祖母や母がそれぞれ絡んでくることに。特務鑑関東殉難と人肌救助の歴史的事件には河野村糠の村の女性たちの行動に深く感動するが、本書での創作ではあるが、福井大地震での出来事は余りに壮絶で、また京子と助けた青年との再会とその後の話は非常に感動的。
本書では重要な舞台となる越前海岸の河野村(現・南越前町)糠や、事件の背景となる重要な場所として登場する奥越の大野市の宝慶寺(大野市街から西南に約10キロメートル、清滝川の上流に位置する名刹で、中国宋時代の高僧寂円が、永平寺の開祖道元禅師を慕い来日、弘安元年(1278年)に開いた大本山永平寺に次ぐ曹洞宗第二道場の寺)を、特に訪ねてみたくなることだろう。巻末には、「特務艦関東の遭難」(上坂紀夫、河野村役場)や「織田信長と越前一向一揆」(辻川達雄、誠文堂新光社)などン参考文献も挙げられている。
尚、石川真介氏の作品で、シリーズで活躍する探偵役の推理作家の吉本紀子は、デビュー作『不連続線』でまだ小説を書いてはいないが登場し、本書「越前の女」では、その後、新人の長編推理小説を幅広く公募するアリバイ崩しを得意とする本格推理作家の名を冠した賞の第2回受賞者として人気を博している32歳の未亡人として登場。福井県を何度か訪れ、京子の経営する武生シティホテルに宿泊し、京子の娘・亜紀に貴重なアドヴァイスを送っている。
目 次
第1章 三人の女 1. 祖母、リョウ 2. 母、京子 3.亜紀
第2章 時効への挑戦
第3章 過去との契約
第4章 生と死の間
終 章 生きて行く越前の女 1. 祖母、リョウ 2. 母、京子 3.亜紀
<主なストーリー展開時代>
・1990年(平成2年)夏~1991年(平成3年)夏
・祖母リョウの話:1924年(大正13年)12月、1941年(昭和16年)秋、1990年(平成2年)
・母京子の話:1942年(昭和17年)、1948年(昭和23年)、1966年(昭和41年)
・亜紀の話:1976年(昭和51年)、1981年(昭和56年)
<主なストーリー展開場所>・
・福井県南条郡河野村(現・南越前町。2005年1月に南越前町が合併新設)
・福井県大野市 ・福井県福井市
・福井県武生市(現・越前市)・福井県今立町(現・越前市)・福井県鯖江市 ・今庄
・一城滝 ・東尋坊(福井県三国町) ・芦原温泉 ・永平寺 ・丸岡城 ・北潟湖
・青山学院大学渋谷キャンパス(中川亜紀が進学)
・京王線千歳烏山(かつての青山学院大学世田谷キャンパス隣の女子寮スクーンメーカー寮)
・東池袋(中川亜紀が大学3,4年生に暮らす福井県人会運営の池袋寄宿舎)
・京都市
<主な登場人物>
・中川リョウ(明治39年(1906年)河野村で生まれ育つ。亜紀の祖母で京子の母。河野村在住)
・中川京子(リョウのひとり娘。夫死後、旧姓の中川京子に戻る。河野村生まれ武生市在住)
・中川亜紀(京子のひとり娘、武生市生まれ、大野市在住)
・中川泉(昭和49年(1974年)生まれ。京子のひとり娘)
・吉本紀子(推理小説作家)
・朝倉義文(昭和29年(1954年)市制発足以来の大野市長)*創作
・大地明子(中川京子経営の武生市のホテル支配人。35歳)
・米岡俊郎(亜紀の藤島高校同級生。慶応大学経済学部卒で大手都銀就職。福井新聞に転職)
・土橋顕二(大野市役所職員、亜紀の夫、大野高校・金沢大学法文学部卒業)
・森正憲(レビュー学院の亜紀の同僚で国語担当。亀山高校教頭を定年退職)
・鈴木俊光(亜紀の勤務する塾・レビュー学院の学院長)
・上本悟志(大野市役所の建設部次長)
・畑山愛郎(昭和45年(1970年)大野市長選挙での朝倉市長への挑戦者)*創作
・沢田綾子(丸岡城の東隣在住。大野市役所近くの喫茶店「綾子の店」オーナー)
・先山昭司(永平寺在住。大野村役場経由、元大野市役所秘書室長。徳島生れで母の実家が大野)
・山形栄太郎(鯖江市在住。大野市の有名料理屋の元板前で奥越棋友会創立以来メンバー)
・朝倉義文市長自宅の右隣の古寺・正信寺の住職
・正信寺に住み込みの18歳の青年
・土橋長鏡(土橋顕二の兄。一橋大学卒業後、東京の会計事務所を経て、大野観光物産協会勤務)
・坂口忠晴(大野観光物産協会理事長で後に福井県会議員)
・今野勝男(土橋顕二の父の弟)
・山本武司(河野村糠の有力網元である日本丸漁業の理事)
・織田信芳(織田信長の直系子孫で人気急上昇のテレビタレント)
・赤塚豊明(福井市の酒造会社社長で郷土史家としても知られる)
・荒木哲(赤塚豊明の京都の弁護人で、藤島高校から大阪大学まで同じ道を進む)
・永井秀典検事
・馬場弓恵(河野村のレストラン Seashore 支配人)
・貞光孝子(河野村のレストラン Seashoreの洗い場係)
・丸山隆子(小学校教諭で河野村在住)
・河野村役場管財課の職員
・伊藤恭子(亜紀の隣家の主婦)
・石川県輪島市のむしあわびの製造メーカーの女性経営者
・高橋毅(東尋坊の土産物店での元店員。今立町の小次郎公園近くに在住)
・林義道(武生市の紫式部公園近くに在住。武生高校の日本史の元教諭)
・レビュー学院の理科担当講師(前職が市の医療技師)の未亡人
・尼弘道(大野の老舗旅館の経営者)
・尼リリス(90歳の老歌姫)
・朝倉義文の妻
・朝倉義文のお抱え運転手
・河野村の海食温泉の女将
・京都の荒木法律事務所の女性事務員(福井市の仁愛女子短大を卒業した荒木哲の遠縁の娘)
・日本特殊科学リサーチ金沢営業所の案内の女性
・福井キネマの関係者
・中川泉の大野高校の女子クラスメート(精神科医のひとり娘、葬儀屋の娘、呉服屋の娘など)
・はる(リョウの隣家の幼馴染で2歳年上。
・水野富男(特務艦関東に乗船した士官で、昭和16年秋の時点で47歳の海軍中佐で男やもめ)
・開戦直後時の河野村立高等女学校の英語教師
・福井市の紡績工場の生産担当副社長
・福井県の土木技師で、京子の直属の紡績工場の副社長の甥
・武生駅近くの旅館を経営する京子の夫
・福井大地震の時に20歳の旋盤工の青年
・福井県立藤島高校の地理の教師
・土橋顕二の大野高校の同級生の妻
・大野市役所の裏手にある書店の初老の店主
・有賀幸世(金沢のソプラノ歌手。亜紀の青山学院の同窓)