北陸を舞台とする小説 第12回 「奥越高原殺人リゾート」(水城 雄 著)


「奥越高原殺人リゾート」(水城 雄 著、TOKUMA NOVEL<徳間書店>、1991年3月発行)

本書の著者・水城 雄(1957年~2020年8月15日)氏は、1957年生まれの福井県勝山市出身の小説家で、1991年の本書刊行時も、本書小説の舞台でもある福井県勝山市在住だったが、その後、上京し、東京で音楽活動含め幅広く活動するも、2020年8月に享年63歳で逝去。小説家としては、最初の頃は、SFアドヴェンチャー小説を書いていたりしていたが、小説を書き始めた比較的初期の頃に、地元の福井県勝山市を含む福井県の奥越地方(奥越前)で実際に進められていたリゾート開発構想をモデルに使ったサスペンス・アクション小説。

この小説では、福井県奥越地方のQ市が、勝山市と隣接するという設定で、ストーリー展開場所となっているが、本書刊行当時は、福井県北東部の奥越地方は、福井県の勝山市・大野市・大野郡和泉村の2市1村の総称。大野郡和泉村は、2005年11月に大野市に編入されて和泉村は廃止されており、現在は奥越地方は、勝山市と大野市の2市エリアの総称。本書で奥越地方のQ市とされるエリアは、著者が生まれ育ち、本書刊行時も住んでいた福井県勝山市の一部と推定できる。本書は、福井県の奥越地方で実際に進められてきた奥越高原リゾート開発構想をモデル題材に書かれたフィクションであるが、本書では、奥越高原リゾート開発構想推進の第3セクターは、創作のQ市に加え、勝山市と大野市、和泉村、福井県と民間が合同出資して作った会社となっている。

総合保養地域整備法(リゾート法)が1987年に公布施行し、リゾート法の成立を受けて、全国各地でリゾート構想が生まれ、福井県の奥越地帯の奥越高原一帯に総合リゾート開発構想が生まれ、1989年5月に福井県が国に基礎調査書を提出し、1990年3月に基本構想の申請。福井県の勝山市・大野市・和泉村の奥越2市1村が計画する「奥越高原リゾート構想」は、総事業費1300億円の大プロジェクトで、1990年5月28日に国が承認(21番目に同意)。この奥越高原リゾート構想は、特定地域面積113,000ha、重点整備地区面積14,000haで、重点整備地区5地区は、①大野城下とその周辺地区、②銀杏峰と宝慶寺周辺地区、③六呂師高原地区、④法恩寺山と平泉寺周辺地区、⑤石徹白川と九頭竜湖周辺地区。

小説ストーリーの展開としては、深夜、東京・辰巳に住むリサーチ会社に勤める磯見史郎のもとに、郷里・福井県奥越高原のQ市で、大坂からUターンして川魚と山菜を中心にした料理を出す旅館を始めていた高校時代の同級生・岩井純一から、一本の電話がかかったことからスタート。学生時代はそんなに親しくはなかったが、前年の盆に10年ぶりで開かれた高校時代の同窓会で再会し仕事の話も少ししたからか、岩井純一は、磯見史郎に「ある調査を頼みたい」と告げた後、電話は不意に切れた(この時代は携帯電話は一般には普及していない時代で固定電話でのやり取り)。翌朝、岩井純一の妻で高校時代の同級生でもある岩井由美子(旧姓・梶山)から、磯見史郎は、岩井純一が、辻見トンネルの手前で、車ごと崖から転落し首の骨を折って即死したとの連絡を受ける。

岩井純一の妻の岩井由美子は、夫・岩井純一の転落事故を信じず、誰かが岩井純一を殺そうとしていて、それを企業調査の仕事をしている磯見史郎に史郎に調べてもらいたがっていたとのことで、ある調査に役立つ資料を、亡くなった夫・岩井純一から預かっていたので、それを渡したいとのこと。その電話を受け、磯見史郎は、すぐに小松空港に飛行機で飛ぶことに。小松空港に車で出迎えに来ていた岩井由美子から、夫の岩井純一と共に営む温泉宿の岩が野山荘が、リゾート開発のため、ダムの水没地域に指定されていたが、開発利権をめぐる郷里・奥越高原のQ市で一軒宿を営む、高校時代の友人・岩井純一からだった。土建会社のオーナーでもある市長と業者の黒い噂を探っていた夫の岩井純一が重大な秘密をつかんでいたことを、磯見史郎は聞き、その資料の束の内容を解明していくが、その資料を取り返そうとする勢力が待ち受けていた。

本書作品の主人公は、28歳の東京・辰巳のマンションに住む磯見史郎。東亜企業リサーチ株式会社調査部第二調査課課長で、去年の4月、ニューヨークから戻ってきて若くして課長を務め、今の会社に引き抜かれる前は銀行の調査部門に勤め、将来コンサルタント業として独立したいという希望を持つエリート独身男性。高校まで郷里の福井県の奥越で過ごしていたが、高校を出てから東京に進学し東京工業大学の経営工学科を優秀な成績で卒業。また、高校教師だった父親が大学の植物学の先生になり、両親が仕事の関係で名古屋に行き、故郷に実家は無い。磯見史郎の高校については、実在の福井県立大野高校とされ、岩井純一・由美子夫婦以外にも、大野高校時代の同級生や後輩にあたる人物がストーリーに登場する。

本書のストーリー展開時期は、年代は明記がなく、福井県奥越地方での、ある年の3月の3日間だけの話となっているが、リゾート法が成立し(1987年)、3年ぐらい前から奥越高原リゾート開発構想の話が具体的になり、「奥越高原リゾート、いよいよ発進!」というポスターが、奥越高原リゾート開発会社の大野市の臨時事務所入り口に張られている場面が描かれていることから、1990年あるいは前後年のことと推定される。”繊維が中心的な産業である奥越地方は、オイルショックを契機に業界の構造不況の嵐にまともにもまれることになった。若者の人口流出をくいとめることはできず、なんとか観光資源に活路を見いだそうとしているところだった。豪雪地帯ということもあって、スキー場の開発という発想は、リゾート構想を待たずともあった”とも、ストーリーの会話の中で述べられている。

本書では、勝山市、大野市、九頭竜川、大野高校、勝山病院(福井勝山総合病院)、京福鉄道勝山駅(現在はえちぜん鉄道)など、実在の地名や場所も登場するが、実在の地名や場所を推定できるも、創作名で表現されているところも少なくない。岩井純一夫妻の営む山荘への行き方は、「勝山市からQ市に入り、辻見トンネルの手前で、国道をそれ、林道を登っていく」とも書かれていて、この辻見トンネルというのは、暮見トンネルで、国道は国道157号線の事と推察できる。頻繁に登場する九頭竜川の支流・辻見川も、九頭竜川の支流・暮見川をモデルとしていると思われる。

本書では、奥越高原には、すでに勝山市に雁ヶ原、大野市に六呂師と勝原、和泉村に九頭竜スキー場などといったスキー場があるが、初心者や家族向けコースだけでなく、本格的な滞在型のスキーリゾートがないと書かれ、リゾート構想の中に、大規模な宿泊設備を備えたスキーリゾートの事に触れられているが、これは、奥越高原リゾート構想の中の、スキージャム勝山のことを指しているはずで、スキージャム勝山は、1993年12月にオープンしている。また、本書ストーリーの終盤の展開場所は、勝山市の雁ヶ原スキー場となっているが、雁ヶ原スキー場は、2020年2月に経営破綻し閉業している。

スキージャム勝山についても、2024年3月末に、”東急不動産(東京)は3月29日、福井県勝山市のスキージャム勝山を管理運営する「勝山高原開発」の全株式を、米不動産投資会社のアジア・パシフィック・ランド(APL)のグループ会社に譲渡した。 スキー場と、併設するホテルの営業はこれまで通り東急不動産のグループ会社東急リゾーツ&ステイに運営を委託する”というニュースが報道された。本書で、辻見川ダムの建設の話も山荘の立ち退きの話とも関連し、辻見川ダムは実在しないが、これは、福井県勝山市の九頭竜川水系浄土寺川(法恩寺山を源流とし勝山市街をへて九頭竜川と合流)に建設されたダムの浄土寺川ダムを想定しているのかとも思った。このダムは、建設着手が1989年だ2008年に竣工していて、浄土寺川及び合流先である九頭竜川の治水、勝山市などへの利水を目的としたダムで、上流域のスキージャム勝山の開発による雨水等の「消流雪用水」および調整池の役割を果たすと言われている。

<主なストーリー展開時代>
・1990年(?)前後の年の3月
<主なストーリー展開場所>

・福井県(勝山市・大野市) ・東京(辰巳)

<主な登場人物>
・磯見史郎(東京・辰巳在住で28歳独身、東亜企業リサーチ株式会社調査部第二調査課課長)
・吹雪香苗(私立大学の21歳前の聴講生で夜はアルバイトで会員制クラブのバニーガール)
・岩井純一(岩井純一の大野高校時代の同級生で、故郷で温泉旅館経営)
・岩井由美子(岩井純一の妻。旧姓・梶山で磯見史郎と大野高校時代の同級生)
・岩井甚六(岩井純一の還暦の父親)
・藤本好美(スナック「ライナーノート」女性経営者で磯見史郎の高校時代の同級生)
・伊垣喜久次(二選を果たしたばかりのQ市市長で伊垣建設の会長)
・岩崎康子(伊垣市長の娘で奥越不動産の社長。伊垣建設の専務の妻)
・宮地(スナック「ライナーノート」の20代前半のバーテン)
・梶山房子(岩井由美子の実母)
・吉津公助(大野市在住の「奥越高原リゾート開発を考える会」会長で元高校教師)
・吉津公助の妻
・大野市内の安部書店の若奥さん
・沖島安彦(大野市の奥越高原リゾート開発株式会社開発企画部部長代理で北海不動産から出向)
・奥越高原リゾート開発株式会社の臨時事務所の女性職員
・吉岡和博(大野高校での同級生で福井大学建築学科卒業後、住宅設計事務所に勤務)
・多田(奥越不動産の事務所にいる事務の女性)
・市川須美江(岩が野山荘を手伝う元給食センター勤務の50歳前後の太った女性)
・市川須美江の息子。市川管工と言う水道屋を起業)
・美雪(岩井純一と由美子の間のまもなく4歳になる子供)
・伊垣喜久次の息子(伊垣建設の社長で青年会議所の理事長)

・宇佐美(商工観光課の40代半ばの市役所職員

・梶田(商工観光課の30代半ばの市役所職員)
・鼻のわきにイボがある女癖が悪い暴漢の男
・眉の片方がまるでそりおとしたように半分なくなっている暴漢の男

・六野(巡査部長)
・中尾(若い警官)
・佐倉と名乗った40歳くらいの小柄な男性)
・田中豊司(田中医院の先生で、現市長誕生の5年前のリゾート反対派の市長選候補者)
・目黒部長(磯見史郎の直属の上司である東亜企業リサーチ第二調査部部長)

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