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北陸を舞台とする小説 第2回 「加賀いにしえ殺人事件」(木谷恭介 著)
- 2023/3/25
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北陸を舞台とする小説 第2回 「加賀いにしえ殺人事件」(木谷恭介 著)
「加賀いにしえ殺人事件」(木谷恭介 著、廣済堂文庫<廣済堂出版>、1995年発行) <*1991年に廣済堂出版より新書版で刊行された作品の文庫版>
<著者紹介>木谷恭介(こたに きょうすけ>(本書発行時。本書著者紹介より)
昭和2年、大阪生まれ。私立甲陽学院卒。週刊誌のライター、放送作家などを経て、昭和52年、小説クラブ新人賞受賞を契機に作家活動に入る。著書に「出雲いにしえ殺人事件」「飛騨いにしえ殺人事件」「札幌薄野殺人事件」「薩摩いにしえ殺人事件」「能登いにしえ殺人事件」「富良野ラベンダーの丘殺人事件」など多数ある。〈追記:2012年逝去〉
旅情ミステリー作家として数多くの作品を発表してきた、推理作家・木谷恭介氏(1927年~2012年)の全国各地の「いにしえ殺人事件」シリーズの加賀を舞台とした長編旅情ミステリー。1977年、50歳で作家生活に入り、1983年から旅情ミステリーに専念し、数多くの作品を量産し、警察庁遊撃捜査係の宮之原昌幸警部が事件解決に挑むシリーズが特に広く人気を博していたが、本書でも、宮之原警部が、ヒロインととともに謎を解明し事件解決に挑む。
東洋銀行青山支店の支店長、53歳の多屋敏弘が230億もの横領の容疑をうけたまま失踪し、その後、石川県の白山の麓の手取川ダムで水死体となって発見される。自宅デスクに置かれてあったデスクダイアリーには、「尼御前」というメモが残されていた。2年前に母親が病気で亡くなり、父親と二人で、埼玉県の草加市松原団地の分譲住宅に住んでいた27歳のひとり娘の都内の会社員・多屋千尋は、石川県の鶴来署(2005年、白山市が発足し旧来の鶴来町は廃止)から連絡を受け、すぐに遺体確認に羽田空港から小松空港に飛び立ち、金沢市の大学附属病院に向かう。
横領の発覚を知って自殺したという警察の見方に納得できない千尋は、父の汚名を晴らそうと、そのまま、遺体が発見された手取川ダム湖と、父親が失踪後、1週間も滞在していたという白山山麓の秘湯の宿を尋ねるが、旅館の主人の話からすると父親の行動があまりにも「らしくない」ことに不信をいだく。失踪後の父の行動を調べていくが、30年以上前の父親が大学生の時の1960年秋の友人たちとの加賀での出来事が浮かび上がり、蓮如上人ゆかりの地に残る加賀の一向一揆の隠し財宝伝説など、事件は意外な展開をみせていく。
本作品の展開時代については、特定年代の記載はないものの、”手取川ダム湖はできてから10年ちょっとの人口湖”という記述(手取川ダム湖は1980年完成)だけでなく、”3か月ほど前、大阪の料亭の女将が4千億円もの大金を架空の預金証書で銀行やノンバンクから借り出し、株に注ぎ込んだあげく、すべてを失った事件で日本中が揺れた”とあり、金融機関を巻き込んだ巨額詐欺事件で1991年8月、詐欺罪で逮捕された「バブルの女帝」と言われた尾上縫の事と推察され、本作品の時代設定は、バブル崩壊の1991年秋と分かる。バブルに踊らされた日本の経済、政治の影に巨大な勢力がうごめいていたことを背景とした旅情ミステリー。
旅情ミステリーのストーリー展開場所は、作品タイトル通り、石川県南部の加賀地方で、まず、首都圏出身のヒロインの女性が、父親の遺体が見つかった手取川ダムの現場を訪ねるために、金沢からバスで鶴来を経由して白山下に向かい、白山下でタクシーに乗り、手取川ダムや、更に父親が1週間も滞在していたという、手取川ダム湖から15キロほど奥へ入ったところの秘湯の宿を訪ねる。その場所が、岩間温泉。2005年に広大な面積の石川県白山市が新設発足しているが、旧・尾口村を中心に白山山麓の加賀南部への旅情をそそられる。
その後、ヒロインの女性は、バスで鶴来まで戻り、小松市、片山津温泉を経て向かったのは、都を追われた源義経の一行は、奥州へと落ち延びる際に、安宅の関は看守の取り調べが厳しいと聞き及び、義経に同行していた尼は、これから先の旅路の邪魔をしたくないと、主君の無事を祈って、岬の先端から身を投じたという伝説がある尼御前岬(加賀市美岬町)。かつて北前船で賑わい北前船の里資料館もある漁港の町・橋立町(加賀市)に寄り、そこからタクシーで石川県と福井県の県境にある吉崎御坊(福井県あわら市吉崎)に向かっている。
本書は、「加賀いしにえ殺人事件」と題し、石川県南部・西南部の加賀地方が主たる舞台であるが、加賀地方と密接な関係を持つ、越前の吉崎御坊(福井県あわら市吉崎)以外に、本作品での重要な被疑者であった東洋銀行常務取締役の貝塚潔の遺体が福井県警によって発見された場所が、手取川ダム沿いの国道157号線を南下し、尾口村から白峰村を経て、県境のトンネルを抜けて福井県勝山市に入ってすぐ、奥河内谷をくだる旧道下の沢という設定で、加賀南部と隣接する越前北部の一部エリアも登場している。
尚、ヒロインが最初、白山下(現在の石川県白山市河原山町(旧鳥越村))でバスを降り、タクシーで手取川ダムや岩間温泉を訪ねているが、この1991年当時は、以前存在した北陸鉄道金名線の終着駅であった白山下駅は1987年(昭和62年)同線の廃線に伴い廃駅となり、北陸鉄道の電車利用ができなくなっている。
浄土真宗中興の祖・蓮如上人(1415年~1499年)や蓮如上人が北陸での布教拠点として築き上げた吉崎御坊についても多く紹介しているが、更に、ヒロインの女性の多屋という珍しい姓についても、”多屋というのは、宿坊のようなもので、参詣者の多い大きな寺には、地方の有力な寺が出張所を設けて、檀家の参詣者を泊め、本山の案内を務めていて、蓮如上人が吉崎御坊をひらかれた時は、多屋が2百軒からひしめいた”という話も紹介されている。
目 次
第1章 230億円の横領
第2章 白山山麓の秘境
第3章 父の足跡
第4章 見えない脅迫者
第5章 古文書を見た女
第6章 孤独な追跡
解説 小梛治宣(おなぎはるのぶ。文芸評論家)
<主なストーリー展開時代>
・1991年秋 ・1960年10月(ヒロインの父が22歳の大学生の時)
<主なストーリー展開場所>
・金沢 ・鶴来 ・手取川ダム ・岩間温泉 ・片山津温泉 ・尼御前岬 ・橋立 ・吉崎御坊 ・東京 ・埼玉県草加市松原団地 ・長浜 ・小田原
<主な登場人物>
・多屋千尋(たや・ちひろ、27歳)
・宮之原昌幸警部(警察庁刑事部遊撃捜査第7係、警部)
・小清水峡子(警視庁,宮之原警部の秘書)
・多屋敏弘(東洋銀行青山支店支店長。多屋千尋の父)
・川喜田公男(城陽ゴルフ社長)
・加佐崎皎(ペンネーム)
・貝塚潔(東洋銀行常務取締役。実家が橋立町の廻船問屋をしていた町の名家)
・鳴海(1960年当時、橋立の駐在所巡査)
・若林(鶴来署刑事課長)
・園田栄(葬儀社、北陸葬送センター)
・金沢市東山の本願寺派の住職
・岩間温泉の旅館の主人と女将
・東京地検特捜部検察官
・多屋千尋が白山下で乗ったタクシーの運転手
・加賀市橋立町の駐在所警官
・橋立町の禅宗の寺の和尚
・本願寺吉崎別院の僧
・山本義雄という偽名で岩間温泉に泊まっていた男
・瀧沢兆勲
・保守党の久米・元幹事長
・佐藤(久米派の事務局長の政治家)
・東洋銀行青山支店副支店長
・佐伯(東洋銀行秘書課社員)
・東尾浜子(新興宗教「幸福のあゆみ」長浜支部長)
・湯浅八重(新興宗教「幸福のあゆみ」長浜支部員)
・鶴来町の教育長で郷土史家
・坂部老人(鶴来町の大きな農地所有の農家)
・40歳前後で和服を着て坂部老人を訪ねた女