北陸を舞台とする小説 第30回 「白磁海岸」(高樹のぶ子 著)


「白磁海岸」(高樹のぶ子 著、小学館、2017年12月発行)
*【初出】「北國文華」(北國新聞社刊)『波涛』と題して17回連載 55号(2013年春号)~71号(2017年春号)本書刊行に際して加筆訂正の上、改題

<著者紹介>高樹のぶ子(たかぎ・のぶこ)(本書掲載著者紹介より・発行当時)
1946年山口県生まれ。1984年「光抱く友よ」で芥川賞、1994年『蔦燃』で島清恋愛文学賞、1995年『水脈』で女流文学賞、1999年『透光の樹』で谷崎潤一郎賞、2006年『HOKKAI』で芸術選奨文部科学大臣賞、2010年「トモスイ」で川端康成文学賞を受賞。その他に『百年の預言』『満水子』『罪花』『ナポリ魔の風』『マイマイ新子』『甘苦上海』『fantasia』『飛水』『マルセル』『香夜』『少女霊異記』『オライオン飛行』など多くの作品がある。

本書の著者・高樹のぶ子氏は、1946年山口県生まれで、1980年「その細き道」を『文学界』に発表し、小説家デビュー後、1984年「光抱く友よ」で芥川賞を受賞。1994年『蔦燃』で島清恋愛文学賞、1995年『水脈』で女流文学賞、1999年『透光の樹』で第35回 谷崎潤一郎賞、2006年『HOKKAI』で芸術選奨文部科学大臣賞、2010年「トモスイ」で川端康成文学賞など数多くの文学賞を受賞。その他にも多くの作品があり、2005年から2010年までは、九州大学アジア総合政策センター特任教授(アジア現代文化研究部門)を務めたり、野間文芸賞、大佛次郎賞、島清恋愛文学賞、芥川賞、朝日賞などの選考委員も務め、2017年には、日本芸術院会員に選ばれる。本書「白磁海岸」の舞台はほとんど金沢市内で、高樹のぶ子 氏は長らく福岡在住ながら、石川県とも縁があり、1999年、谷崎潤一郎賞を受賞した「透光の樹」は、石川県石川郡鶴来町(2005年に白山市新設合併で廃止)を主舞台とした作品。また、1994年、石川県美川町が美川町出身の島田清次郎にちなみ、恋愛小説を対象とした島清恋愛文学賞を創設し、その第1回を『蔦燃』で受賞。その後、1997年から2009年までは島清恋愛文学賞の選考委員を務め、2020年には、石川県金沢市出身の泉鏡花にちなんだ金沢市主催の第48回 泉鏡花文学賞を「小説 伊勢物語 業平」で受賞している。本書「白磁海岸」は2017年12月に小学館から刊行されているが、初出は、石川県金沢市を本社に置く北国新聞社が季刊で刊行する北陸の文芸誌「北國文華」の55号(2013年春号)から71号(2017年春号)まで『波涛』と題して17回連載されたミステリー小説。

本書ストーリーは、京都の織物問屋で長年一級和裁士として働いていたが、60歳になり、半年前に名前を堀田雅代と偽って石川県金沢市に移り住んだ女性・堀雅代の話からスタートする。移り住んだ先は、金沢市大野町の元モロミ蔵だった建物を改装しモロミ館と名付けられ、こまちなみ保存地区で小さな多目的ホール「モロミ館」として使われている古民家で、そこの住み込み管理人として生活していた。その多目的ホール「モロミ館」では、少人数の絵画教室や手芸サークルに使われたりしていたが、堀雅代は、16年前に金沢の大学生だった22歳の一人息子の堀圭介が金沢港から海に落ちて亡くなったとされていた死の真相を突き止めるために、当時、堀圭介と、金沢芸術大学の同級生で特に仲の良かった親友の柿沼利夫と、その妻になった涼子が何か知っているに違いないと二人に接触すべく、柿沼涼子が少人数の絵画教室を開いていた金沢市大野町の「モロミ館」の住み込み管理人に応募していた。当時、金沢芸術大学の学生だった堀圭介は、16年前に金沢港の防波堤から身を投げて死んだが、死体は波にさらわれ羽咋で見つかったと警察に処理され、死因も、涼子と利夫との三角関係の敗者として、失恋から自殺を選んだのではないかと見られ、その上、堀圭介は鬱病を抱えていたらしいと柿沼利夫が証言し涼子も同調したと警察から報告を受けていたが、母1人子1人の堀雅代は、一人息子の事故死や自殺に納得できず、息子は殺されたのではないかと16年間疑い続けていた。

一方、金沢芸術大学の情報管理部の講師・薄井宏之は、金沢市泉野に還暦前の母親と暮らす30歳を超えたばかりの独身男性。父親は大阪に単身赴任中で、2人の姉も能登と金沢市内に嫁いでいた。この薄井宏之が、ある日、勤務先の大学のスタジオ録音室の隅にあった古いロッカーの奥に長年放り込まれていたらしい、布にくるまれた白磁の皿を偶然見つける。大学の同じ部の里山教授に報告したところ、同じ大学の陶芸科の教授に相談され、その白磁の皿がいつ頃から誰のもので古いロッカーの中に置かれていたかは分からなかったが、更に金沢芸術大学の学長にも話があがる。遂には、この白磁の正体をめぐって、芸術院会員の著名な陶芸家で金沢芸術大学の特別顧問も務める羽田豪太郎までが異様な反応を示し、白磁の皿の最初の発見者の薄井宏之は、何か謎が隠されていると感じ始める。この羽田豪太郎は、金沢市寺町在住で、柿沼涼子の実父であり、母校の金沢芸術大学の美術科准教授を務めている柿沼利夫にとっては義父という関係にあった。

また、浅野川に沿うようにして、車で金沢から30分、山に向かって東南に走った金沢市の郊外にある湯涌温泉の夢二館に勤務し、そこのミュージアムショップを担当している20歳の独身女性・遠藤美津の話が登場してくる。遠藤美津は、金沢市片町でカウンターだけの小さな小料理屋「舟味」を営む母親・八重との母子家庭ながら、今は独立して金沢市内のアパートに1人住まいをしていた。この若く美しく着物も似合う20歳の独身女性の遠藤美津が、4歳の娘もいる妻子ある18歳も年上の柿沼利夫と不倫関係にあった。60歳を過ぎ金沢市大野町のこまちなみ地区に京都から古民家の「住み込み管理人として移り住んだ堀雅代と、金沢市泉野に住む30歳を過ぎたばかりの独身男性の金沢芸術大学の情報管理部の講師・薄井宏之、それに金沢市郊外の湯涌温泉の夢二館に勤務する20歳の独身女性・遠藤美津という、全く関係がなかった3人が、偶然に接点を持つことになる。そして、堀雅代の一人息子の堀圭介の16年前の死の真相と、薄井宏之が勤務先の大学の中で偶然見つけた謎の白磁の皿の正体と、堀圭介の16年前の大学時代の同級生の親友で、遠藤美津の不倫相手の柿沼利夫がどう交わってくるのかということを中心に物語が展開していく。

本書のストーリー展開時代については、明確な具体的な記述はないものの、2012年12年の新聞記事を引用している箇所もあり、初出が2013年春号の文芸季刊誌「「北國文華」で連載が始まっているので、2013年頃と推定。2012年10月に長崎県対馬市の寺社から韓国人窃盗団によって重要文化財の仏像が連続盗難にあった事件の事にも触れている。ストーリーのほとんどの登場人物が石川県金沢市内に在住で勤務先も金沢市内ということもあり、ストーリーの展開場所は、ほとんどが石川県金沢市内。金沢市といっても広大で、金沢市中心市街地だけでなく、金沢市の東西の郊外の大野町と湯涌温泉の2カ所も主な舞台。1935年(昭和10年)に金沢市に編入合併した旧石川郡大野町は、金沢港の西側で金沢市北西部に位置し、大野川河口の地域で日本海に面する港町で、隣接の金石地区とともに北前船の寄港地で繁栄した地域で、醤油の生産地としても知られる町。江戸時代からの町並みが残っていて、金沢市のこまちなみ地域に指定されていて、本書ストーリーで堀雅代が住み込み管理人として京都から移り住んだのも、この金沢市大野町のこまちなみ保存地区。金沢市郊外の山あいにある金沢の奥座敷として歴史ある温泉地の湯涌(ゆわく)温泉は、大正時代を代表する詩人画家・竹久夢二(1884年~1934年)が1917年(大正6年)秋、6歳の次男・不二彦の病後療養のため、恋人・笠井彦乃(1896年~1920年)と一緒に3週間滞在した事でも知られ、2000年(平成12年)4月には、金沢湯涌夢二館(金沢市湯涌町)が建立されている町。本書ストーリーでは遠藤美津がこの夢二館で勤務するスタッフという設定。

本書ストーリーで、多くの登場人物の関係先が、金沢芸術大学という設定になっているが、金沢芸術大学は実在しないものの、大学の学科の構成や立地場所からは、実在の公立金沢美術工芸大学をモデルにしているものと推測。終始、金沢市内でストーリーが展開するが、終盤になり、能登半島の西の付け根に位置する日本海側の石川県羽咋(はくい)市も登場し、更に本書ストーリーに於いて、非常に重要な意味を持つ場所として、羽咋市の北隣りで能登半島の西岸の日本海側の石川県羽咋郡志賀町(しかまち)の安部屋(あぶや)地区の弁天島がクローズアップされてくる。弁天島は日本海に突き出した陸続きの小さな島。かつて北前船が寄港した安部屋港を守る天然の防波堤としての役割を果たし、弁天島には、伊都久志麻(いつくしま)神社が有り、御祭神は市杵島姫(いちきしまひめ)が祀られ、海の安全と豊漁を願う漁師たちの守り神として信仰されてきたとのこと。本書ストーリーの大きなテーマとしては、朝鮮白磁の話と合わせ、北朝鮮からの日本海沿岸への漂流船の問題で、朝鮮白磁の歴史についても詳細な説明が加えられているし、また、北朝鮮からの日本海沿岸、特に石川県の能登半島沖への漂流の問題についても、いろいろなニュースなどが紹介されている。

<主なストーリー展開時代>
・2013年以降(*ストーリー展開時代についての具体的な記述なし。2012年12月の新聞記事を引用している箇所あり)
<主なストーリー展開場所>

・石川県(金沢市、羽咋市、志賀町)

<主な登場人物>
・堀雅代(金沢市大野町の小さな多目的ホール「モロミ館」の住み込み管理人)
・堀圭介(堀雅代の一人息子で、16年前、金沢芸術大学生の22歳の時に自殺)
・柿沼利夫(母校の金沢芸術大学の38歳の美術科准教授)
・柿沼涼子(柿沼利夫の妻で、金沢市大野町のこまちなみ保存地区で絵画を教えている)
・薄井宏之(金沢芸術大学の情報管理部の講師で、30歳を超えたばかりで金沢市泉野に母親と同居)
・遠藤美津(金沢市の湯湧温泉の夢二館勤務でミュージアムショップ担当の20歳の母子家庭の独身女性)
・羽田豪太郎(芸術院会員の著名な陶芸家で、金沢芸術大学の特別顧問。金沢市寺町在住で柿沼涼子の実父)
・里山進(金沢芸術大学の情報管理部の教授)
・岡部教授(金沢芸術大学の陶芸科の教授で、古美術や考古学の本を何冊か出している研究者)
・柿沼樹利(柿沼利夫と涼子の4歳の娘)
・金沢芸術大学学長
・八重(遠藤美津の母親で、金沢市の片町でカウンターだけの小さな小料理屋「舟味」を営む)
・金沢市の湯湧温泉の夢二館の女性館長
・小料理屋「舟味」の客たち(地元の商店主たちと医療関係の会社の社員たち)
・松安(八重の幼なじみの自転車屋で小料理屋「舟味」の常連客)
・小料理屋「舟味」の長く働いている板前
・不動産業を営むモロミ館の所有者
・伊東信次(地元の新聞社の社会部記者で入社して2年目。薄井宏之の教え子)
・金沢芸術大学の事務室勤務の事務員)
・金沢市平和町の市立病院の総合受付スタッフ
・時子(羽田豪太郎の金沢市寺町にある家のお手伝い)
・松岡(羽咋の開業医)
・日本で朝鮮白磁のディーラーをやっている二人の男性
・藤千騎(地元の新聞社の定年退職者で、羽咋市内在住)

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