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北陸を舞台とする小説 第35回 「雷鳥九号殺人事件」(西村京太郎 著)
北陸を舞台とする小説 第35回 「雷鳥九号殺人事件」(西村京太郎 著)

「雷鳥九号殺人事件」(西村京太郎 著、<カッパ・ノベルス>光文社、1983年7月発行)
(表題作「雷鳥九号殺人事件」の初出は、「別冊小説宝石」1982年初夏号)
<著者紹介>西村京太郎(にしむら きょうたろう)(*本書に著者紹介は掲載無し)
1930年(昭和5年)東京生まれ。1963年『歪んだ朝』で「オール讀物」推理小説新人賞、1965年『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞を受賞。1981年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞を受賞し、推理界に不動の地位を築く。2001年「西村京太郎記念館」オープン。2004年 日本ミステリー文学大賞を受賞。2012年刊行『十津川警部 秩父SL3月27日の証言』で出版点数500冊を突破。、2019年には「十津川警部」シリーズで吉川英治文庫賞を受賞。2022年3月逝去、享年91歳。<1930年~2022年>
本書の著者・西村京太郎(1930~2022)氏は、鉄道や観光地を舞台にしたトラベルミステリーの第一人者で、十津川警部が活躍するシリーズなどの人気推理作家で多くの作品がテレビドラマ化されている。また多作で600以上の作品を世に送り出した。昭和5年(1930)東京生まれで、人事院に入ったが、作家を志して退職。トラック運転手や私立探偵などを経て30代の前期から作家活動に従事し、昭和38年(1963)「歪んだ朝」でオール読物推理小説新人賞を、昭和40年(1965)には、「天使の傷痕」で第11回江戸川乱歩賞を受賞。初期は社会派推理小説を執筆していたが、その後、トラベルミステリーの分野を開拓。昭和53年(1978)に発表した「寝台特急殺人事件」がベストセラーになって以来、十津川警部シリーズは数多くテレビドラマ化され、人気を集めた。晩年には、自伝的ノンフィクション「一五歳の戦争」を執筆するが、令和4年(2022)3月に逝去。本書は、多作で知られる西村京太郎氏のトラベルミステリーの比較的初期の中短篇5作品を収録した傑作集で、1983年7月に単行本が発刊。時刻表と列車に関するトリックの作品ばかりが揃っている。表題作「雷鳥九号殺人事件」の初出は「別冊小説宝石」1982年初夏号。西村京太郎作品で人気シリーズの十津川警部は、本書収録5作品中、急行「だいせん」殺人事件の作品以外の4作品に登場している。
[雷鳥九号殺人事件」のストーリーは、大阪発金沢行き特急「雷鳥九号」の車内で、敦賀を出てから福井駅に到着する前に、列車のトイレで男性が死んでいるのが発見された。被害者は、新大阪駅から1人で乗車した東京の貴金属商の羽田工業の社長・羽田真一郎と判明。死因は射殺で、列車のトイレの中から、薬莢と弾丸が見つかり、また北陸本線の新疋田と敦賀の間の下り路線の脇で拳銃が保線区員によって発見された。始発の大阪駅から同じ雷鳥9号のグリーン車に1人で乗っていた若い女性の隣に、新大阪駅から1人で乗車してきた被害者が腰を下ろして親しげに話しかけていたことを車掌長に目撃されていたことから、福井駅で1人で下車した若い女性の捜索が始まり、また、雷鳥九号の車掌長が、新深坂トンネルを通過中に銃声と思われる音を聞いたことなどを証言したことから、音を消すために新深坂トンネルの中で射殺されたものと見られた。福井駅で1人で下車した若い女性は、九頭竜湖行きの越美北線に乗るのを見たという事件当日の目撃者がいたのに続き、翌日の早朝には九頭竜湖の湖岸でそれらしい女性を見たと言う報告も入り、九頭竜湖岸にある旅館に宿泊していた女性を福井県警の刑事が発見する。
その女性は、東京・世田谷区深沢在住の三浦由美子で、東京・新宿の西口に本社のある中堅の商事会社・K商事のOL。調べが進むうちに、東京の世田谷区深沢にある中学校で美術の教師をしていた恋人の河原俊夫が、雷鳥9号殺人事件ヶ起った3月12日の約半年前の前年の11月に、人造湖の九頭竜湖(福井県大野市箱ヶ瀬)に投身自殺をしていた。河原俊夫は、当時29歳で、両親は福井市の郊外で、手広く園芸の事業をやっていたが、2人の息子も跡を継がないこともあり、父親が長年やってきた園芸業を辞め、土地を売った金が約3億円入る。そこへ、河原俊夫の大学の先輩にあたる福井県選出の代議士・瀬能久太郎が登場し、強引に金の投資をやらないかと勧め、結託していた悪徳の羽田工業に大金を騙し取られ、両親は相次いで病死し、責任を感じた河原俊夫が投身自殺をする。恋人の仇を討ったという動機も明確で、殺人実行を裏付ける弾丸や拳銃も発見され、他にもいろいろ証拠が揃い、福井県警の留置場の三浦由美子は黙秘を続けるも、送検され、福井地裁で公判が始まる。
裁判の行方も、三浦由美子の有罪は動かないものになっていて、それをひっくり返すことなど不可能に思えた時に、事件は思わぬ方向に、ひっくり返ることになる。金沢市片町の空き家の床下から、福井県選出の代議士・瀬能久太郎の射殺死体が発見される。瀬能久太郎は、約1ヶ月前に射殺れていただけでなく、その死亡決定時刻は、3月12日の午前9時から10時の間と断定される。午前10時5分大阪発の金沢行き雷鳥9号の中で、羽田真一郎が新深坂トンネルを通行中の列車内で射殺された日時は、3月12日の午前11時40分頃。しかも、雷鳥9号での殺人に使われた凶器と、同日の2時間ほど早い時間での金沢での殺人に使われた凶器が、全くの同一の銃による凶器による犯行と断定される。さらに、瀬能久太郎は、3月12日の午前9時に、国鉄金沢駅前の金沢クラウンホテルを出発していることも確認され、非常に不可解な事件の様相を示すことになる。この事件の逆転するトリックを解くカギは、北陸本線の時刻表と、特異な路線ルートにあった。
近江国塩津と越前国敦賀との間を結ぶ古道(深坂古道)には、福井県敦賀市追分と滋賀県長間橋西浅井町沓掛を繋ぐ境に深坂越、深坂峠があり、北陸本線の近江塩津駅(滋賀県長浜市西浅井町)と新疋田駅(福井県敦賀市疋田)の間をつなぐ県境の深坂トンネル(上り単線、5,170m)と新深坂トンネル(下り単線、5,173m)があり、本作品の雷鳥九号の列車内での殺人事件は、大阪発金沢行きの下りの新深坂トンネル内での犯行。特急「雷鳥」は、大阪と北陸を結ぶ特急として新設され、1964年12月25日、大阪と富山を結ぶ特急「雷鳥」が最初に運行。1974年7月20日に近江塩津駅から琵琶湖西岸を経由して京都の山科駅に繋がる湖西線が開通し、1975年3月10日からは従来の米原経由が、湖西線経由に変更。1997年3月22日のダイヤ改正で、一部の列車がサンダーバードに改称され、最終的には「雷鳥」名称の列車は、2011年3月11日に無くなっている。本作品の初出は1982年で、本作品の中でも、大阪を出発した雷鳥9号は、大阪、新大阪、京都。京都を出ると、列車は湖西線に入り、近江今津駅に到着し、近江塩津駅を通過し湖西線から北陸本線に入る、と書いてあるので、1975年3月10日の湖西線経由移行の時代と分かる。北陸本線は、新疋田と敦賀の間では、上りと下りの線が大きく分れ、上り線に鳩原ループ線があるが、事件の鍵を握る一つのポイントになっている。また、新疋田と敦賀の間で、北陸本線の線路がまたいでいる川として、敦賀市を流れる「笙の川」も事件に関係してくる。
本書は、中短篇5編が収められている本書には、表題作の「雷鳥九号殺人事件」だけでなく、「夜行列車”日本海”の謎」と言う短篇作品も、北陸に関連した小説となっている。この「夜行列車”日本海”の謎」は、西村京太郎氏の十津川警部シリーズにとっては、十津川警部の新妻・直子が事件に巻き込まれ、離婚した前の夫が登場するという点で注目される作品。十津川警部の妻、直子は、十津川と結婚するまで、東京都新宿区にあるデザイン工房でインテリア・デザインの仕事をしていたが、京都に旅した十津川直子が、京都の名神高速の京都南インター近くのモーテルで、前の夫を殺し、自殺を図り、下着姿で、左手首から血を流して発見されるという衝撃の展開から物語が始まる。直子は、6年前、25歳の時に、当時28歳で国立大学を出て東京の商社で働くエリートサラリーマンだった脇坂和男と結婚したが、結婚して1年で離婚。この脇坂和男の父が富山の大変な資産家で、富山には、和男の父の後妻と、2人の異母兄弟がいたが、実業家の実父が亡くなり、富山で脇坂物産の副社長として働いていた。この作品も、時刻表や列車の謎解きが面白いが、青森と大阪を結ぶ寝台特急「日本海」や、日本海循環線の貨物列車、貨物専用駅が取り上げられている。
「雷鳥九号」殺人事件 収録作品
「雷鳥九号」殺人事件(初出誌「別冊小説宝石」1982年初夏号)
幻の特急を見た(初出誌「オール讀物」1983年5月号)
急行「だいせん」殺人事件(初出誌「別冊小説宝石」1982年爽秋号「空白の27分間」改題)
殺人(ころし)は食堂車で(初出誌「週刊小説」1982年7月16日号)
夜行列車「日本海」の謎(初出誌「オール讀物」1982年12月号)「雷鳥九号殺人事件」目次
第1章 北陸への旅
第2章 ブローニング自動拳銃
第3章 送検
第4章 公判
第5章 逆転
<主なストーリー展開時代>
・具体的な年代は記載なし(時期は3月~4月)
<主なストーリー展開場所>
・福井県(福井市、九頭竜湖、敦賀、新疋田)、大阪、東京(深沢、新宿)、石川県(金沢市)
<主な登場人物>
・十津川警部(東京生まれ東京育ちの警視庁捜査一課の40歳の警部)
・三浦由美子(東京・新宿の西口に本社のある中堅の商事会社・K商事のOLで、東京都世田谷区深沢在住)
・久木(大阪発金沢行きの「雷鳥9号」車掌長)
・羽田真一郎(貴金属会社の東京に本社のある羽田工業社長)
・松山(羽田工業の副社長)
・瀬能久太郎(福井選出の代議士)
・河原俊夫(東京の世田谷区深沢にある中学校の美術の教師で、三浦由美子の元恋人)
・河原明(河原俊夫の4歳下の弟)
・亀井刑事(警視庁捜査一課の十津川警部の良き相棒)
・桜井刑事(警視庁捜査一課の若い刑事)
・井出警部(福井県警捜査一課)
・浜村警部補(福井県警捜査一課)
・田中刑事(福井県警捜査一課)
・福井県警の鑑識課員
・近藤(福井県警の婚約中の27歳の若い刑事)
・大牟田(福井県警本部長)
・山本検事(福井地検)
・片岡慶(ベテランの腕のいい弁護士)
・列車内で人が殺されていると通報する雷鳥9号の55,6歳の男の乗客
・清水弘(雷鳥9号のグリーン車の乗客で終着の金沢まで行った35歳のサラリーマン)
・鈴木勇一と奥田信介(北陸本線の保線区員)
・東京・世田谷区深沢の三浦由美子が住むマンションの中年の管理人
・井上(東京・新宿の西口に本社のある中堅の商事会社・K商事に勤める27歳の男性社員)
・金子警部(警視庁捜査二課)
・井川技官(大阪科研の勤続25年の銃の専門家)
・原田外科部長(金沢大学病院の医者)
・佐藤(敦賀駅の助役)










