北陸を舞台とする小説 第7回 「金沢歴史の殺人」(西村京太郎 著)


「十津川警部シリーズ 4  金沢 歴史の殺人」(西村京太郎 著、双葉社、2002年7月発行)
<初出誌:「週刊大衆」2001年11月12日号~2002年4月29日号>

本書の著者・西村京太郎(1930~2022)氏は、鉄道や観光地を舞台にしたトラベルミステリーの第一人者で、十津川警部が活躍するシリーズなどの人気推理作家で多くの作品がテレビドラマ化されている。また多作で600以上の作品を世に送り出した。昭和5年(1930)東京生まれで、人事院に入ったが、作家を志して退職。トラック運転手や私立探偵などを経て30代の前期から作家活動に従事し、昭和38年(1963)「歪んだ朝」でオール読物推理小説新人賞を、昭和40年(1965)には、「天使の傷痕」で第11回江戸川乱歩賞を受賞。初期は社会派推理小説を執筆していたが、その後、トラベルミステリーの分野を開拓。昭和53年(1978)に発表した「寝台特急殺人事件」がベストセラーになって以来、十津川警部シリーズは数多くテレビドラマ化され、人気を集めた。晩年には、自伝的ノンフィクション「一五歳の戦争」を執筆するが、令和4年(2022)3月に逝去。

本書は、多作で知られる西村京太郎氏のトラベルミステリーで人気シリーズの十津川警部シリーズの金沢を舞台とする一作品で、「週刊大衆」2001年11月12日号~2002年4月29日号に初出された作品。本書のヒロインは、金沢で生まれ育ち、金沢の香林坊近くのマンションで一人暮らしをしながら、たった一人の肉親である29歳の姉が経営する金沢の香林坊の雑居ビル二階にある喫茶店「二人」で働きながら、カメラマンとしての腕を磨いている24歳の女流カメラマン・酒井千沙。

本書のストーリーは、女流カメラマン・酒井千沙が、歴史の町金沢をモチーフに古都金沢を撮った初の写真集が東京・四谷の東央出版から刊行される直前に、四谷駅近くの路上で、東央出版の編集部長・小倉敬一が何者かに突然射殺され即死という事件がまず起こる。酒井千沙は、写真集に掲載予定のすべて未発表の写真のネガも引き延ばしたものの全部、射殺された出版社の編集部長・小倉敬一に預けていたが、それらがどこにも見つからずに、予定されていた写真集が刊行されなくなってしまう。

東京・四谷の路上で起った出版社の編集部長・小倉敬一の射殺事件の後すぐに、今度は金沢の香林坊で喫茶店「二人」を経営してした酒井千沙の姉・酒井由美が、夜、国道157号線の石川県の横宮町(現・石川県野々市市)付近で、酒井由美が運転する軽自動車が、金沢市内に住む妻子ある運送会社の運転手・本橋利男が運転する大型トラックに居眠り運転で追突されて事故死する。姉の事故死が、自分の写真のネガが消えたことと関係があるのではないかと疑う酒井千沙は、亡くなったネガと同じ写真を撮ってみようと、メル友だった警視庁捜査一課の若い西本刑事の励ましと警固と協力のもと、金沢歴史の町を再度撮り歩くことに。

トラベルミステリーの第一人者・西村京太郎氏の作品だけあって、こうして、本作品には、金沢の歴史の町の各所が旅情豊かに登場してくる。兼六園に始まり、犀川、長町武家屋敷、大野庄用水、犀川大橋、寺町寺院群、妙立寺(忍者寺)、願念寺、桜橋、W坂(石伐坂)、東山の月心寺。全性寺、竜国寺、あめの俵屋、鍋屋「太郎」(主計町)、ひがし茶屋街、卯辰山、にし茶屋街など、金沢の街を巡っているが、特に本書の事件で重要な場所に設定されているのが、ひがし茶屋街、主計町茶屋街と並ぶ金沢三茶屋街のひとつである「にし茶屋街」。

作品のストーリーは、最初に東京四谷で射殺された東央出版の小倉敬一編集部長が、酒井千沙の撮ったネガのために、射殺されたことは、その後、明らかになるが、小倉敬一が、酒井千沙のネガを持っていることを、犯人はどうして知っていたのか?という点に捜査が移り、その捜査で、いろんな関係者が浮かび上がる中で、小倉敬一からネガを見せられたであろう、和服のモデルの小川明子の死体が多摩川に浮かんで発見される。やがて、小川明子の線から、金沢市内で内科医院を開業していた父と、金沢の旧家で資産家出身の母を持つ金沢出身の重要な容疑者が浮かび上がり、金沢での別の事件との関わりが捜査の対象となっていく。

本書には、十津川警部シリーズに常連のおなじみの警視庁刑事部捜査一課の「十津川班」の刑事たちや上司、相棒のカメさんなどが登場するが、「十津川班」の若い刑事の西本刑事が、事件の捜査に関わるだけでなく、本書のヒロインの金沢の女性・酒井千沙との二人の関係の展開も気になる内容になっている。尚、本書発行は、2002年7月発行で、酒井千沙の姉運転の軽自動車が、国道157号線の横宮町で大型トラックに追突されているが、この横宮町は、2011年11月に、石川郡野々市町が市制を施行し、野々市市が誕生している。

目次
第1章 香林坊の女
第2章 カメラの眼
第3章 関係者
第4章 動機とアリバイ
第5章 攻防
第6章 幻の映像
第7章 手さぐり
第8章 最後の闘い

<主なストーリー展開時代>
・2000年10月~2001年(*年代の明記はないものの、”世田谷での一家皆殺し事件が発生した”という文章があり、2000年12月30日深夜に東京都世田谷区上祖師谷3丁目での長期未解決事件の指しているものと思われる)
<主なストーリー展開場所>

・金沢市内各所 
・東京各所 ・伊豆の伊東 ・富士の裾野

<主な登場人物>
・十津川警部(警視庁刑事部捜査一課警部で「十津川班」のリーダー)
・西本刑事(警視庁刑事部捜査一課刑事で「十津川」班メンバーの若い刑事)
・酒井千沙(24歳の金沢在住の女性)
・酒井由美(酒井千沙の29歳の独身の姉)
・小倉敬一(東央出版の40歳の書籍編集部長)
・井上(東央出版の小倉敬一の下で働いていた若い編集者)
・清水宏(四谷3丁目にスタジオを持つ写真家)
・本橋利男(北陸のZ運送の45歳トラック運転手で金沢市内在住)
・日野(金沢西警察署の交通課の刑事)
・矢代伍郎(暴力団K組の元幹部)
・南条和夫(60歳の金沢生まれの石川県選出の代議士)
・松本弘(40歳の中堅の俳優で旅行好き)
・小川明子(35歳の加賀友禅が好きな主に和服のモデルで東京・成城在住)
・井本(小川明子が所属しているプロダクションのマネージャー)
・小松久美子(小川明子の親友で35歳の新進画家で東京・晴海にアトリエをもつ)
・西方広太郎(51歳の社会評論家でK大助教授。東京・永福町在住)
・近藤武彦(西方広太郎の母親の実家の当主で近藤運輸の社長で市議会議長)
・栗田(石川県警本部の警部)
・原和也(K大の42歳の助教授で東京・渋谷区内在住)
・原みゆき(原和也の30代の妻で、父親が町工場の経営者)
・原みゆきの東京の短大時代の女性友達
・原みゆきの行きつけの美容院のママ
・永井(S大の助教授で原和也の同期生)
・深沢道子(講師で原和也の同期生)
・小山(経済評論家で原和也の同期生)
・U出版の出版部長
・三沢(中央テレビ局の番組プロデューサー)
・伊豆の伊東の西方広太郎の別荘の近くの商店街の酒屋の主人
・倉田(伊東の派出所の巡査部長)
・佐藤(宅配業者の熱海営業所のR運送の若い配達員)
・伊集院あき(金沢市内で、CGの工房を仲間と運営。酒井千沙の高校時代の同窓生)
・野原研一郎(金沢市の観光協会会長)
・にし茶屋街のお茶屋中川のおかみさん
・加東実(暴力団K組の組員)
・池内元(暴力団K組の組員)
・深大寺の料亭「沢田」の仲居
・本堂(西方広太郎の友人)と妻
・鈴木(石川県警の刑事)
・中村警部(警視庁刑事部捜査四課)
・田辺守(金沢の生まれの51歳の大物総会屋)
・暴力団K組組長
・富士の裾野の宗教団体SNの修行センター建設工事の掘削機の運転手と現場監督
・早坂くに子(矢代伍郎の女)
・三上(警視庁刑事部長で十津川警部の上司)
・本多(警視庁刑事部捜査一課課長で十津川警部の上司)
・亀井(警視庁刑事部捜査一課所属で、「カメさん」と呼ぶ十津川警部の良き相棒)
・日下刑事(警視庁刑事部捜査一課刑事で「十津川」班メンバー。西本刑事とコンビを組む)
・三田村刑事(警視庁刑事部捜査一課刑事で「十津川」班メンバー)
・北条早苗刑事(警視庁刑事部捜査一課刑事で「十津川」班メンバー)
・田中刑事(警視庁刑事部捜査一課刑事で「十津川」班メンバー)
・片山刑事(警視庁刑事部捜査一課刑事で「十津川」班メンバー)
・山本警部(初動捜査班)

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