北陸関連の図録・資料文献・報告書  第10回 徳田秋聲記念館 総合図録「秋聲」(徳田秋聲記念館 発行)


徳田秋聲記念館 総合図録「秋聲」(発行:徳田秋聲記念館、2005年4月発行、2018年3月 改訂増刷)

徳田秋聲記念館
石川県金沢市東山1丁目19番1号
徳田秋聲記念館 公式ホームページ https://www.kanazawa-museum.jp/shusei/

金沢の三文豪の一人である徳田秋聲は、川端康成の言葉として「日本の小説は源氏にはじまって西鶴に飛び、西鶴から秋聲に飛ぶ」と評されてもいるが、金沢市が、金沢市出身の小説家・徳田秋声の作品や業績を伝え、市民がその文学作品に親しむことを目的に、平成17年(2005年)4月7日に、徳田秋聲の生家や旧居に近く浅野川に架かる梅ノ橋のたもとに開館(石川県金沢市東山1丁目)。本冊子は、徳田秋聲記念館の総合図録で、基本は「徳田秋聲記念館」の常設展示に合わせて制作。平成17年(2005年)4月に記念館開館し、総合図録は、平成17年(2005年)4月に発行。平成27年(2015年)春、開館10周年を記念し徳田秋聲記念館総合図録『秋聲』改訂版を発行。平成28年(2016年)3月に改訂増刷。

徳田秋聲(名は末雄)は、明治4年(1871)金沢県金沢町第四区横山町二番丁一番地(現・石川県金沢市横山町五番九号)に生まれるも、この後、徳田秋聲は、22歳の明治25年(1892)に作家を志し上京するまでに、浅野川近くで転居を繰り返しているが、まず、「秋聲文学の原風景」として、金沢市内から、浅野川、卯辰山、ひがし茶屋街、下新町の4か所が挙げられている。それぞれ、作品の中での原風景の描写とともに、それぞれの場所の最近の写真や周辺のゆかりの地など、地図とともに紹介されている。更に「秋聲文学地図」の頁で、金沢市内の主として浅野川両岸エリアの地図に、<秋聲ゆかりの場所>として、生家跡、4回の転居先、母タケ永眠の地、菩提寺の静明寺など8地点が、また<作品の舞台となった場所>として、10作品と舞台となった場所が説明付きで表示されていて、秋聲ゆかりの金沢の地を巡る上で非常に便利で有用。<秋聲関係の「碑」>も卯辰山、静明寺境内、「文学の故郷碑」(金沢市立馬場小学校前庭)など4か所表示。

徳田秋聲の生涯を紹介するパートが、本書の核となる内容と思えるが、これは、「小伝・時代を追うて」と題し、生涯を以下6区分に分けて詳細に紹介。❶「秋聲の生まれた地、金沢」(明治4年(1871年)~明治25年(1892年)➋「紅葉門下からの出発(明治26年(1893年)~明治36年(1903年)❸「自然主義文学の深化」(明治37年(1904年)~大正5年(1916年)➍「新しい読者とともに」(大正6年(1917年)~大正14年(1925年)❺「スキャンダルに抗して」(大正15年(1926年)~昭和7年(1932年)❻「「市井」からの凝視」(昭和8年(1933年)~昭和18年(1943年))。各時代区分に沿った、色々な資料が画像で紹介され、非常に興味深いが、この6つの時代区分は、巻末の詳細な「徳田秋声年譜」にも反映されている。巻末の「徳田秋声年譜」では、没後事項についても頁を割いている。

❶から➋への転機は、明治25年(1892年)文学仲間で活発な学友・桐生政次(悠々)と共に小説家を目指して上京し、尾崎紅葉や坪内逍遥を訪ねるが、自分たちの未熟さを思い知らされることになる。が、その後、泉鏡花の誘いで再び尾崎紅葉を訪ね門下生となることを許され、作家としての道を歩みだし、「牛門の四天王」の一人として数えられるようになった。➋から❸への転機は、明治36年(1903年)師・尾崎紅葉の早すぎる死。作品は徐々にリアリズムの色を濃くし、やがて、師と異なる自然主義文学作家としての地位を確立。❸から➍への転機は、大正時代、急激に発展した出版ジャーナリズムの依頼に基づき、また生活上の必要に迫られ、秋聲は数多くの通俗小説を執筆。➍から❺への転機は、大正15年(1925年)妻はまが急死(享年46歳)。身辺の世話からやがて交際に発展した30歳下の弟子・山田順子との関係は、興味本位にマスコミに取り上げられた。山田順子との関係はおよそ2年で破局を迎え、秋聲はしばし実作から遠ざかるが、❻への転機として、昭和8年(1933年)創作活動を再開。文壇に復帰した秋聲は、以後社会の底辺に生きる人々を積極的に取り上げ、意欲的に執筆を続ける。

徳田秋聲は、師・尾崎紅葉の死から2年後の明治38年(1905年)から73歳で亡くなるまで約38年間、終の棲家となる東京都文京区本郷6丁目の徳田秋声旧居に居住し創作活動を行っていて、『新世帯』『足迹(あしあと)』『黴(かび)』『爛(ただれ)』『あらくれ』などを執筆し、『仮葬人物』で第1回菊池寛賞を受賞するが、これらの代表作はすべてこの家で書かれたもの。旧宅は、明治末期に建築された母屋とその後に増築された離れの書斎、そして二階建て住宅部分、庭などで構成されていて、日常愛用の蔵書、調度品、日記、原稿など、遺品もきわめて多く保存されているとのことだが、徳田秋聲記念館には、徳田秋聲のあゆみを伝え、徳田秋聲の直筆原稿や遺品などの展示以外にも、東京・本郷の徳田秋聲旧居の書斎が再現されている。本書図録でも、この徳田秋声旧居や書斎、愛用品、俳句について触れている。数多くの作品については、随所で紹介されているが、リストとしてまとまった資料としては、「秋聲作品映画化リスト」「秋聲作品舞台化リスト」がまとめられている。

徳田秋聲記念館の総合図録だけに、文章を寄せている方々も、特別な方々ばかりで、徳田秋聲の孫にあたる徳田秋聲記念館名誉館長・徳田章子氏(1941年生まれ)による「祖父と父」と題する文章が寄稿されている。徳田章子氏は、徳田秋聲の長男の小説家・徳田一穂氏(1903年~1981年)の次女で、2歳の時に祖父・徳田秋聲は亡くなったので、父・徳田一穂をとおしての祖父と父の思い出。「秋聲はいまも新しい」と題する文章は、「徳田秋聲」論も書き、2006年「徳田秋声全集」(八木書店)の編集で菊池寛賞受賞の元武蔵野大学教授・作家・評論家の松本徹氏によるもの。1997年11月より、八木書店版『徳田秋聲全集』が刊行開始で、全42巻別巻一で、2006年12月に完結。この膨大な規模の秋聲全集については、小林修 氏(実践女子大学短期大学部教授・『徳田秋聲全集』編集委員)が、「菊池寛賞を受賞した『徳田秋聲全集』ー秋聲文学の全容に迫る空前の集大成」と題した文章を寄せている。

目次
ごあいさつ      金沢市長 山野 之義
次の十年に向かって  徳田秋聲記念館館長 上田 正行
秋聲文学の原風景
浅野川/ 卯辰山/ ひがし茶屋街/ 下新町/ 秋聲文学地図
徳田秋聲旧宅(東京)
小伝・時代を追うて
秋聲の生まれた地、金沢
紅葉門下からの出発
自然主義文学の深化
【参考1】秋聲作品映画化リスト
新しい読者とともに
【参考2】秋聲作品舞台化リスト
スキャンダルに抗して
【コラム1】秋聲とダンス
「市井」からの凝視
秋聲の書斎
秋聲の愛用品

【コラム2】秋聲と西洋音楽
秋聲の俳句
祖父と父  徳田秋聲記念館名誉館長 徳田 章子
秋聲はいまも新しい  元武蔵野大学教授・作家・評論家 松本 徹
菊池寛賞を受賞した『徳田秋聲全集』ー秋聲文学の全容に迫る空前の集大成
実践女子大学短期大学部教授・『徳田秋聲全集』編集委員 小林 修
徳田秋聲年譜
主要参考文献
資料提供・協力者一覧

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