首都圏の中の北陸ゆかりの地「東京監獄市ヶ谷刑務所 刑死者慰霊塔と古河力作刑死の大逆事件」(東京都新宿区余丁町4丁目)

首都圏の中の北陸ゆかりの地
「東京監獄市ヶ谷刑務所 刑死者慰霊塔と古河力作刑死の大逆事件」(東京都新宿区余丁町4丁目)


(写真上:「東京監獄市ヶ谷刑務所 刑死者慰霊塔」(東京都新宿区余丁町 新宿区立富久町児童遊園・余丁町児童遊園内)<*2023年7月3日午後訪問撮影>

現在の都立総合芸術高等学校(東京都新宿区富久町22)を中心とした広大な一帯には、明治36年(1903)に東京監獄が設けられた。その前身は明治3年(1870)に皇居近くの鍜冶橋門に未決囚を収容する監倉事務取扱所で、その後鍛冶橋監獄署と改称し、1903年(明治36年)に内務省(警視庁)から司法省へ移管され、東京監獄と改称し、1903年(明治36年)6月に東京駅の建設のため、鍜治橋から東京市牛込区市谷富久町(現・東京都新宿区富久町)に移転し7月1日から事務を開始。

東京監獄は、大正11年(1922)には市谷刑務所と改称したが、次第に宅地化した地元の要請で、昭和12年(1937)に巣鴨刑務所の跡地に移転し東京拘置所と改称。市谷富久町にかつて存在した刑務所は、1903年(明治36年)から1937年(昭和12年)まで東京監獄のちに市ヶ谷刑務所と呼ばれた刑務所。当初、未決囚の収容を目的としたが次第に既決囚も収監し、明治44年(1911)1月24日・25日には幸徳秋水ら大逆事件の死刑囚計12名の処刑も行われた。

この広大な刑務所跡地の一部は、現在は「新宿区立富久町児童遊園・余丁町児童遊園」となっており、新宿区立富久町児童公園内の入口付近に、「東京監獄 市ヶ谷刑務所 刑死者慰霊塔」が建っているが、この慰霊塔が建っている場所に処刑場があったと言われる。この慰霊碑は、昭和39年(1964)7月15日に、日本弁護士連合会が建立。「大逆事件(幸徳事件)」といわれる天皇暗殺謀議は、1911年(明治44年)1月に、大逆事件の首謀者に仕立てられた幸徳秋水をはじめ12人の死刑執行に至ったが、その12名の死刑囚の一人が、若狭小浜郊外の雲浜村に生れ、東京・滝野川で草花栽培の園丁であった古河力作 (1884年(明治17年)~1911年(明治44年)1月24日刑死)。

同じ若狭出身の水上勉氏による『古河力作の生涯』(単行本「古河力作の生涯」は、1973年11月、平凡社より刊行。平凡社の雑誌『太陽』で連載(1972年1月号〜73年6月号)した文章をまとめて刊行)の最終章の15章には、東京監獄跡と刑死場の場所について、以下の様な文章が書かれている。

”古河力作の遺骨は行方不明のままだと書いた。どこへしまわれて、どこへもち去られたかわからない。そのことが気になったものだから、この稿を終わるにあたって、私は、力作の処刑された市ヶ谷富久町の東京監獄跡と、遺骨が一時埋められたとつたえられる道林寺跡のあたりを訪れた。朝から降りはじめた雨で、町は濡れていた。市ヶ谷から河童橋下をすぎて、百メートルほど行った地点を右折し、牛込抜弁天へ向かう商店街の道をしばらくゆくと、左に折れたあたりの高台に着く。そこが、東京監獄のあった場所である。いまは富久町児童遊園になっている。家のぎっしりつまった町の中に、小さな公園はあった。・・・天皇の名において、処刑された古河力作の絞首台は、いま私の佇んでいる遊園地の入口の小径にあったといわれている。この道路は、一方がアパートで、一方が遊園地の境界石になっている。・・・”

また、水上勉氏による『古河力作の生涯』の第12章には、”古河力作の収容されていた東京監獄は、今の市ヶ谷富久町にあって、内藤新宿から、本村町の陸軍士官学校へ向かう通りから北へ細道をのぼったところにあった。隣りに市ヶ谷監獄署がある。市ヶ谷監獄には既決囚が収容され、東京監獄には未決囚を収容していたもので、のち、市ヶ谷監獄は中野へ越した。力作が収容されていた明治43年頃は監獄の跡は草っ原になっていて、一つだけ絞首台が無気味にのこっていたということである。もっとも、この絞首台は、引っ越し忘れたものであり、隣接した東京監獄のためにのこされていたわけではない。のちにわかることだが、どういうわけか、未決囚を収容する東京監獄にも絞首台はあった。”という文章がある。

紛らわしいが、東京監獄(市ヶ谷刑務所)の隣りに、別に市ヶ谷監獄があり、中野に移転するまでは、1903年(明治36年)から1910年(明治43年)の間は市ヶ谷で隣り合わせとなっていたということ。この市ヶ谷監獄の元は、伝馬町老屋敷で、1875年(明治8年)に先に、日本橋小伝馬町より市ヶ谷へ移転し。市谷谷町囚獄役所として設立され、1903年(明治36年)に市谷監獄と改称。1910年(明治43年)に東京府豊多摩郡野方村(現・東京都中野区野方)に移転し、豊多摩監獄となった。

大逆事件(幸徳事件)刑死12名
1911年1月18日に、被告26名のうち、大逆罪により死刑24名、爆発物取締罰則違反での有期懲役刑2名の判決(大審院一審のみの終審)。死刑判決24名の内、12名は特赦により死刑執行免除)
■処刑12名(1月24日に死刑執行11名)
・幸徳秋水(1871年~1911年1月24日刑死)高知県幡多郡中村町(現・四万十市)出身
・森近運平(1881年~1911年1月24日刑死)岡山県後月郡高屋村(現・井原市)出身
・宮下太吉(1875年~1911年1月24日刑死)山梨県甲府市若松町出身
・新村忠雄(1887年~1911年1月24日刑死)長野県埴科郡屋代町(現・千曲市)出身
古河力作(1884年~1911年1月24日刑死)福井県遠敷郡雲浜村(現・小浜市)出身
・奥宮健之(1857年~1911年1月24日刑死)土佐国土佐郡布師田村(現・高知県高知市)出身

・大石誠之助(1867年~1911年1月24日刑死)紀伊国新宮仲之町(現・和歌山県新宮市)出身

・成石平四郎(1882年~1911年1月24日刑死)和歌山県東牟婁郡請川村(現・田辺市)出身
・松尾卯一太(1879年~1911年1月24日刑死)熊本県出身
・新美卯一郎(1879年~1911年1月24日刑死)熊本県出身
・内山愚童(1874年~1911年1月24日刑死)新潟県北魚沼郡小千谷町(現・小千谷市)出身
■処刑1名(1月25日に死刑執行1名)
・管野スガ(管野須賀子)(1881年~1911年1月25日刑死)大阪府大阪市北区絹笠町出身

(写真上:「新宿区立余丁町児童遊園」(東京都新宿区余丁町4丁目)<*2023年7月3日午後訪問撮影>
*新宿区立余丁町児童遊園と繋がる奥が新宿区立富久町児童遊園。刑死者慰霊塔は奥の新宿区立富久町児童遊園の入口に建っている。

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