北陸を舞台とする小説 第18回 「越前岬殺人事件」(梓 林太郎 著)


「越前岬殺人事件」(梓 林太郎 著、NON NOVEL-741 <祥伝社>、2002年6月発行)

<著者略歴>梓 林太郎(あずさ りんたろう)(1933年~2024年)(本書掲載著者紹介・本書発行当時)
「取材で訪れた福井では、自然の豊かさが印象に残りましたが、とりわけ越前岬の展望台からみた海の美しさは他に類を見ないものでした。間もなく黄昏を迎えようとしている越前海岸を前に、しばし落日のドラマに酔いしれておりました」と氏はその取材の充実ぶりを熱く語る。どうか読者諸氏、美しき自然を舞台に繰り広げられる人間悲喜劇をご堪能いただきたい。
昭和8年(1933年)長野県生まれ。会社員、調査会社経営を経て、昭和55年(1980年)『九月の渓で』で第三回小説宝石エンターティンメント小説大賞を受賞しデビュー。山岳推理の第一人者として知られると同時に、本作を含む作家探偵茶屋次郎シリーズなどが好評。近年は原作のテレビドラマ化も多い。
*2024年1月27日、老衰で死去。91歳没。

本書は、『旅行作家・茶屋次郎の事件簿  越前岬殺人事件』書き下ろし。梓林太郎氏(1933年~2024年1月)は、長野県下伊那郡上郷村(現・飯田市)生まれ育ち。会社員、調査会社経営を経て、昭和55年(1980年)『九月の渓で』で第3回小説宝石エンターティンメント小説大賞を受賞しデビュー。山岳推理の第一人者として知られると同時に、本作を含む旅行作家探偵茶屋次郎シリーズなどが好評。2024年1月27日に老衰で死去(享年91歳)「旅行作家茶屋次郎」は橋爪功主演でテレビドラマシリーズ化もされたが、数多くの作品がある旅行作家・茶屋次郎シリーズの中には、”名川シリーズ”や”岬シリーズ”があり、旅行作家・茶屋次郎の”岬シリーズとしては、本作「越前岬殺人事件」(2002年)が、”「納沙布岬殺人事件」(2000年)、「南紀潮岬殺人事件」(2001年)に次ぐ”岬シリーズ”の第3弾の書き下ろし長編本格推理小説。

旅行作家・茶屋次郎が、週刊誌「女性サンデー」からの依頼で、「岬シリーズ」と題し、福井県越前海岸の越前岬を連載することとなり、越前ガニの解禁にあわせ、11月7日に、東京から空路で小松空港経由でバスで福井入りし、レンタカーを借りて福井県坂井郡三国町(現・坂井市三国町)の東尋坊や雄島を散策するところ場面からストーリーが始まる。翌朝、茶屋次郎は、突如地元警察の三国署から殺人容疑で連行される。前日、東尋坊近くの雄島の大湊神社近くの林の中で、東京・目黒区在住の25歳の会社員・竹脇肖子が絞殺され、茶屋がその重要参考人として割り出される。当初、茶屋四郎は芦原温泉に宿泊後は、海岸線に越廼村、越前町、河野村と並んだ国道305号に沿う約42キロの「漁火街道」を巡る予定もしていたが、地元警察の疑惑のつきまといに自由な行動もとれずに4日目には一旦、小松空港から東京に戻ることに。

その後の茶屋次郎の取材の過程で、三国雄島で絞殺された被害者・竹脇肖子の父親で竹脇商事社長の竹脇博文が、3年前の冬の夜、帰宅途中に東京の自宅の近くの路上で何者かに襲われて頭部を殴られ、以来記憶喪失となっていた事実が明らかになる。しかも、近親者の世話で福井県の越前町の越前岬灯台近くの療養施設に入っていた。旅行作家・茶屋次郎は、再び福井入りし、福井駅からレンタカーを借り越前町に越前海岸や越前岬を訪ねたが、今度は越前岬に近い林の中で、三国雄島で絞殺された被害者・竹脇肖子の28歳の姉・竹脇悠見子が扼殺され、越前岬での殺人事件でも、竹脇悠見子と偶然会っていた茶屋次郎は、地元警察の丹生署から疑われてしまう。越前岬での殺人事件の被害者・竹脇悠見子は、服飾デザイナーを志し、東京のデザイン学校を出た後、勉強のためにパリに滞在していたが、妹の事件を知って急遽帰国していた。福井県の三国雄島と越前岬での相次ぐ若い姉妹の殺人事件と、3年前の東京での姉妹の父親が何者かに襲われ記憶喪失となった事件との関係は、その後の東京、さらに函館での茶屋次郎の取材で、本書後半から明らかになっていく。

本書ストーリーの主たる舞台は、三国雄島と越前岬と、二つの殺人事件が相次いで起こる福井県となるが、なかでも、旅行作家・茶屋次郎の当初の福井県入りは、岬シリーズに越前岬を連載するという取材旅行でもあったことから、越前海岸と越前岬への旅情あふれる作品。越前岬・越前岬灯台(現・福井県丹生郡越前町血ヶ平)だけでなく、観光名所の呼鳥門・鳥糞岩(越前町梨子ヶ平)、越前岬水仙ランド(越前町血ヶ平)、越前がにミュージアム(越前町厨)、更には茶屋次郎は、玉川温泉(越前町玉川)に宿をとり、越前町には、米ノ、高佐、白浜、茂原、厨、道口、大樟(おこのぎ)、小樟(ここのぎ)、城ケ谷、新保、梅浦、玉川、左右(そう)の漁港があるが。越前海岸の漁港を見て回っている。

本書作品には、哀しい家族や男女の人生ストーリーがいろいろと取り上げられているが、その中でも。旅行作家・茶屋次郎が、芦原温泉で出会った芦原温泉の芸妓・かつ世の家族を巡る話は本書の中で度々登場する。芦原温泉の芸妓・かつ世が披露する三国節に、茶屋次郎が惹かれたことがきっかけでもあるが、健気で気になる優しい良い福井県出身の女性。かつ世は、三国町の生まれで38歳独身。19歳から芸妓の仕事に入り、家族は、三国港で漁師をしている三国生まれの66歳の父親が実家で今も一人で生活している。父親は三国の生まれで、母親は福井市の人だったが、父親が母親を見初めたものの、彼女が4歳のときに、好きな男ができ、その男は大坂からやってきて母を好きになったようで、父が漁に出ているすきに、母は家出をし、男の元へ走った。母が家を出て1か月足らずのある日、母がかつ世の2歳上の兄だけを連れていき、その後の母や兄の消息は分からないままという身の上。母親は息子を連れて男と一緒に岐阜で暮らしていたが、10年くらい一緒にいて男と別れ働き口を東京に見つけ東京に転居していたが、この家族それぞれの人生も非常に哀しい。

本書ストーリーの時期については、具体的な年代明記はないものの、旅行作家・茶屋次郎の「南紀潮岬」(2001年5月発行)の本が刊行された後なので、2001年の11月からの話と推定できる。ストーリーの中で、茶屋次郎が、福井県立恐竜博物館を、芦原温泉に旅行に来ていた3人組の女性グループを誘って見学に行く場面もあるが、この福井県立恐竜博物館の開館は、2000年7月。京福電鉄芦原湯町駅が本書ストーリーで登場しているが、旧京福電鉄は2001年6月営業停止となり、2003年7月に、えちぜん鉄道あわら湯のまち駅と改称し、2003年8月より営業再開となっている。尚、本書では東尋坊や雄島がある福井県坂井郡三国町は、2006年3月に坂井市に新設合併されている。また本書ストーリーの時点では、越前岬がある福井県丹生郡越前町は、その後、2005年2月1日に、丹生郡朝日町、越前町、宮崎村及び織田町が合併して、改めて丹生郡越前町が発足している。そのため、本書ストーリーでは、越前岬殺人事件を管轄する丹生警察署(旧朝日地区)は、2008年4月に鯖江警察署に統合されている。越前岬殺人事件があったのは11月16日(日曜)の設定ながら、2001年11月16日は金曜で、2003年11月16日が日曜日にあたる。

目次
1章 東尋坊
2章 恐竜の里
3章 父娘の事件
4章 越前岬
5章 秋の邂逅
6章 北の消息
7章 根なし草

<主なストーリー展開時代>
・2001年11月~12月
<主なストーリー展開場所>

・福井県(芦原温泉、三国町、福井市、勝山市、越前町、朝日町、越廼村)
・東京(渋谷、上目黒、西新宿、新橋、世田谷区玉川、葛飾区、大田区、杉並区、築地)
・函館(湯川温泉、函館空港、五稜郭公園、函館港、函館駅、函館朝市、駒ヶ岳)

<主な登場人物>
・茶屋次郎(東京・渋谷に事務所を持つ旅行作家。4年前に離婚。11歳の娘は元妻が引き取る)
・牧村博也(週刊誌『女性サンデー』編集長で39歳)
・江原小夜子(茶屋次郎の事務所の秘書で25歳)
・春川真紀(茶屋次郎の事務所の秘書で24歳)
・麻子(芦原温泉・福井への女性3人組の観光客で40歳くらい)
・春名(芦原温泉・福井への女性3人組の観光客で40歳くらい)
・下柳加奈子(30半ばで43歳の元夫と先月離婚。青森県八戸出身。父は高校生の時に漁で亡くなる)
・竹脇肖子(東京都目黒区上目黒4丁目在住の大手企業「和弘石油」25歳会社員)
・竹脇博文(竹脇肖子の59歳の父で、東京・新橋で「竹脇商事」元経営者)
・竹脇まつ子(竹脇肖子の母)
・竹脇悠見子(竹脇肖子の姉で28歳。服飾デザイナーを志しパリに滞在)
・竹脇研次(竹脇康文の弟で、竹脇商事社長)
・竹脇商事の21,2歳の女性社員で茶屋次郎のファン
・柿沢(世田谷区玉川在住で、竹脇商事で先代から50年勤務の竹脇博文の元秘書
元顧問で72歳)
・東京都目黒区上目黒の竹脇家の隣の主婦
・杉下涼子(竹脇肖子の高校時代からの友人で東京・西新宿の会社に勤務)
・竹脇肖子の勤務先の和弘石油の親しくしていた女性同僚
・盛田美由紀(竹脇博文の元愛人。長野県南信濃村の農家出身で東京在住の33歳)
・木暮あや乃(竹脇博文の元愛人。和歌山県の高校を出て東京の短大卒業。東京・杉並区在住の45歳)
・安岡かつ世(芦原温泉の芸妓で三国町出身の38歳)
・安岡ハナ(安岡かつ世の62歳の母親で東京・葛飾区で独居)
・小笠原葦平(竹脇博文の友人で墨田区で元印刷業を先代から経営)
・小笠原太詞(小笠原葦平の長男で28歳)
・小笠原沙織(小笠原葦平の娘で20年前に4歳で交通事故で死去)
・芦原温泉の40歳を越えた仲居の女性
・山倉(週刊誌『女性サンデー』の前編集長)
・土井刑事(肩幅の広い三国署の刑事)
・三国署の30代の刑事
・春野刑事(50歳くらの丹生警察署刑事)
・越前町の療養施設の女性職員
・木暮あや乃が20年ほど前にかつて住んでいた大田区のマンションの家主
・小笠原印刷の土地建物を競売後に機械工場を建てた60歳ぐらいの社長
・小笠原印刷のあった場所の裏の小西家の白髪の主人
・茶屋次郎の東京の知人の弁護士
・函館市内の小学校の教職員
・大塩(小笠原太詞の函館の小学校在校当時の担任教諭で60代半ば)
・小笠原葦平・太詞父子が函館で17年間かつて住んでいたアパートの70代の女性家主)
・函館朝市のあすか商店の60歳くらいの社長
・函館朝市の山武商店の60代なかばの社長
・中込(函館朝市の山武商店勤務で小笠原太詞の27,8歳の元同僚)
・東京中央卸売市場(築地市場)の曙丸商店の社長
・曙丸商店の30歳くらいの男性従業員

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