北陸関連の図録・資料文献・報告書 第7回 「若狭高浜の禅宗文化」令和5年度春季特別展・夏季企画展開催記念冊子(高浜町郷土資料館 発行)

北陸関連の図録・資料文献・報告書  第7回 「若狭高浜の禅宗文化」令和5年度春季特別展・夏季企画展開催記念冊子(高浜町郷土資料館 発行)

「若狭高浜の禅宗文化」令和5年度 春季特別展・夏季企画展開催記念冊子(執筆・編集:倉田尚明、発行:高浜町郷土資料館、2023年発行)

令和5年度春季特別展「若狭高浜の禅宗文化Ⅰ」 伊藤若沖と若狭の禅僧
会期:令和5年(2023年)4月24日~5月28日
会場:高浜町郷土資料館2階多目的ホール(福井県大飯郡高浜町)
令和5年度夏季企画展「若狭高浜の禅宗文化Ⅱ」 若狭高浜と禅宗の広がり
会期:令和5年(2023年)8月6日~9月3日
会場:高浜町文化会館資料展示室(福井県大飯郡高浜町)

本冊子「若狭高浜の禅宗文化」は、福井県高浜町郷土資料館学芸員の倉田尚明氏が執筆・編集され、高浜町郷土資料館が発行した、令和5年度(2023) 春季特別展・夏季企画展開催記念冊子で、春季特別展と夏季企画展の展示内容を紹介するとともに作品だけではなく、福井県大飯郡高浜町における禅宗寺院が担った役割についても紹介。高浜町郷土資料館の令和5年度春季特別展「若狭高浜の禅宗文化Ⅰ  伊藤若沖と若狭の禅僧」は、令和5年(2023年)4月24日~5月28日の会期で、高浜町郷土資料館2階多目的ホール(福井県大飯郡高浜町)で開催され、高浜町郷土資料館の令和5年度夏季企画展「若狭高浜の禅宗文化Ⅱ 若狭高浜と禅宗の広がり」は、令和5年(2023年)8月6日~9月3日の会期で、高浜町文化会館資料展示室(福井県大飯郡高浜町)で開催。

令和5年度春季特別展「若狭高浜の禅宗文化Ⅰ 伊藤若沖と若狭の禅僧」は、江戸時代の京都の絵師・伊藤若冲(1716~1800年)と福井県高浜出身の禅僧で門弟の維明周奎(いめいしゅうけい)(1731年~1808年)に焦点を当てた展示で、京都の裕福な宗派は浄土宗の青物問屋の長男として生まれ育った伊藤若冲が、創作活動の拠点とした禅宗寺院である京都の相国寺との関係が、まず取り上げられている。伊藤若冲の最大の理解者・支援者で生涯の友となる相国寺の高僧である大典禅師(大典顕常、1719年~1801年)との二人の関係が紹介される。伊藤若冲より3歳年下の大典禅師(大典顕常)は近江国神崎郡伊庭郷(現・滋賀県近江市)生まれ。

この著名な江戸時代の絵師・伊藤若冲が活動の拠点とした京都の相国寺と若狭高浜の臨済宗寺院との交流を紹介する目的で本展示が企画されたとのことだが、若狭には多くの臨済宗寺院が存在しており、相国寺末の寺院も多く見られ、また若狭出身の禅僧が相国寺や南禅寺など主要な禅宗寺院の管長となっている事例も多く見られ、京都と若狭の間で禅宗を通じた交流が見受けられ、高浜に維明周奎や釈越渓などの優れた禅僧が誕生し京都で活躍する。

若狭高浜の坂田(現・福井県大飯郡高浜町坂田)出身の臨済宗の禅僧・維明周奎(いめい・しゅうけい)(1731年~1808年)は、京都の相国寺にゆかりの禅僧として知られ、相国寺の復興にも努め、晩年には相国寺第115世(住職)を務めた。また、相国寺を拠点として活動していた若沖に師事し画法を学び画僧としても名を挙げ、特に梅の水墨画を描くことに優れる。令和5年度春季特別展「若狭高浜の禅宗文化Ⅰ 伊藤若沖と若狭の禅僧」では、若冲の水墨画と、高浜町郷土資料館所蔵の維明周奎の水墨画が展示され、本冊子でも、下述の通り、書画の画像が掲載紹介されている。

令和5年度夏季企画展「若狭高浜の禅宗文化Ⅱ 若狭高浜と禅宗の広がり」展示内容からは、若狭高浜は、多くの中世から近世にかけての臨済宗寺院があり、各寺院から著名な禅僧を輩出していて、高浜の禅宗寺院と、高浜の禅僧や禅僧が残した書画を紹介している。「高浜の禅宗寺院」では、福井県高浜町日置31-3にある、大成寺(だいじょうじ)と、福井県高浜町宮崎74-4にある園松寺(えんしょうじ)が、代表的な高浜の禅宗寺院として取り上げれている。瑞応山 大成寺は、若狭でも数少ない臨済宗建仁寺派の中本山で、1351年に足利尊氏の次男・基氏の開基とする説など諸説あるものの、その後の若狭武田氏との関係つながりなど、武家による関与があったことは確かと見られ、高浜に残る中世寺社として重要な役割を果たしていたと考えられている。

一方、園松寺の方は、臨済宗相国寺派の寺院で、天正9年(1581)に、若狭高浜の領主であった逸見昌経(へんみ・まさつね、1522年~1581年)の菩提寺として創建。もとは昌福寺と称されていたが、慶長年間(1596年~1615年)に現在地に移され、中嶋山園松寺と改称されたとのこと。同寺には、逸見氏の子孫が奉納した逸見昌経像や逸見氏系図などもあるとのことで、若狭逸見氏と中世の高浜の歴史を知る上で重要な資料が残されていて興味深い。園松寺は近世になると、本末制度の中で臨済宗相国寺派に属することになり、本山相国寺と塔頭寺院より若狭国内の34ヶ寺を統括する觸頭(ふれがしら)寺院として存在。

本冊子では、若狭高浜の禅僧として、高浜町三明生まれの越渓禅師(釈越渓・越渓守謙、1806年~1884年)と、高浜町若宮生まれの宗演禅師(釈宗演・洪嶽宗演、1860年1月<旧暦では1859年12月>~1919年)の2人について、その経歴と残した書画について紹介している。釈越渓は、相国寺管長職や妙心寺管長職に就くなど京都に置いて活発に活動し、とくに妙心寺塔頭天授院に移り「妙心寺僧堂」と言われる道場を開いたことは有名。一方、釈越渓の親戚で弟子にあたる釈宗演は、洋学を学び明治20年(1887)スリランカに渡航しサンスクリットの教学を修め、明治25年(1892)には円覚寺派管長に就任し、翌年にはアメリカのシカゴで行われた万国宗教会議に日本仏教代表として参加するなど、世界中に「ZEN」を広めるきっかけを作り国際的にも活躍が認められた。

本冊子では紹介されていないが、夏季企画展では、5人の若狭高浜出身あるいは高浜にゆかりのある若狭出身の禅僧の書画が展示されたが、維明周奎、越渓禅師、宗演禅師以外では、越渓禅師、宗演禅師の師にもあたり若狭高浜とのゆかりの深い、若狭の現・おおい町大島出身の儀山善来(1802年~1878年)や、釈越渓に師事した若狭高浜の内浦地区出身の京都妙心寺の管長を務めた虎関宗補(1839年~1903年)の書画も企画展では紹介展示された。南北朝期から室町期にかけての禅宗の興隆は若狭においても波及し、若狭高浜においても多くの禅宗寺院が建立され、中世から近代まで、多くの若狭の禅僧が輩出されているが、若狭の禅僧は、京都との関わりが深く、禅僧の往来や交流による若狭高浜における禅宗文化の広がりを強く感じることができる。

目次
序章
春季特別展【若狭高浜の禅宗文化Ⅰ】伊藤若沖と若狭の禅僧
第1章 若沖とは
第2章 相国寺と伊藤若沖
第3章 維明周奎と伊藤若沖
夏季企画展【若狭高浜の禅宗文化Ⅱ】若狭高浜と禅宗の広がり
第1章 高浜の禅宗寺院
第2章 高浜の禅僧
終章

<本冊子掲載写真・画像>
相国寺法堂(相国寺蔵)
臨済宗相国寺派の大本山。足利義満の尽力により明徳3年(1392)に創建される。開祖は夢窓疎石。室町時代の禅宗文化の拠点となった。
久保田米僊筆「伊藤若冲像」(相国寺蔵)
明治18年(1885)に若沖85年忌法要に際して、生前の若沖をイメージして描かれた肖像。
「雪梅図」梅荘顕常賛 伊藤若沖筆(大光明寺蔵)
若沖の支援者であった相国寺住持の梅荘顕常が画賛を書いている。
「昇鯉図」伊藤若沖筆(大光明寺蔵)
伊藤若沖生前墓(相国寺蔵)
若沖が50歳の時に相国寺内に建てた寿像(生前墓)。墓石の銘文は、大典禅師が書いたと伝わる
「佛祖画容」維明周奎筆(個人蔵)
「雪梅図」維明周奎筆(高浜町郷土資料館蔵)
「墨梅図」維明周奎筆(高浜町郷土資料館蔵)
画賛は江戸後期に京都で学問所弘道館を開いた儒学者皆川棋園が書いた。棋園は円山応挙の門弟としても知られる。
「月梅図」維明周奎筆(高浜町郷土資料館蔵)
大成寺(だいしょうじ)山門
●木造 逸見昌経坐像
(圓松寺蔵)
園松寺(えんしょうじ)
●「三河萬歳」越渓守謙筆
(高浜町郷土資料館蔵)
「夷子大黒画賛」越渓守謙筆(高浜町郷土資料館蔵)
「達磨図賛」釈宗演筆(高浜町郷土資料館蔵)
「不二山図」釈宗演筆(高浜町郷土資料館蔵)
「舟中書感」釈宗演筆(高浜町郷土資料館蔵)
明治20年(1887)3月に宗演禅師が29歳でイギリス領セイロン(現・スリランカ)へ遊学に赴く船中で書いたものが「船中書簡」。イギリス領であったセイロンでは、東洋人への扱いが酷く、気候なども日本とは違うものだった。本作品は、様々な人種の中にあってこれからのセイロンでの修行に対する思いを綴ったもの

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