北陸の歴史人物関連 「古河力作(1884年~1911年)の墓と歓喜山妙徳寺」(福井県小浜市青井)

<写真上:「古河力作の墓(親子一基)」(福井県小浜市青井)(*2024年2月26日午前訪問撮影)

「大逆事件(幸徳事件)」といわれる天皇暗殺謀議は、1911年(明治44年)1月に、大逆事件の首謀者に仕立てられた幸徳秋水をはじめ12人の死刑執行に至ったが、その12名の死刑囚の一人に、1884年(明治17年)に若狭小浜郊外の雲浜村に生れて育ち、草花栽培の園丁であった古河力作 (1884年(明治17年)~1911年(明治44年)1月24日)がいた。古河力作は、生まれ故郷の若狭小浜郊外の雲浜村を17歳で離れ、神戸での丁稚期間を経て、20歳で東京に出て、東京・滝野川の草花圓で園丁をつとめているうち、社会主義を信奉するようになり、幸徳秋水や管野スガと往来を重ね、大それた陰謀に加わっていたとして処刑されることになった。

その古河力作の境遇に、古河力作の処刑8年後の1919年に生まれた福井県大飯郡本郷村出身で、同じ福井県の若狭の出身の作家・水上勉(1919年~2004年)がひとなみならぬ哀惜を持ち、平凡社の雑誌『太陽』で連載(1972年1月号〜73年6月号)を始めた後、連載文章をまとめ1973年11月、平凡社より単行本『古河力作の生涯』が刊行。古河力作は、1884年(明治17年)6月14日、福井県遠敷郡雲浜村竹原第9号字西作園場9番地(現・福井県小浜市)に、父は慎一、母は八尾(やを)の長男として生れ、地元の雲浜尋常高等小学校(雲城校)での高等科卒業までの学窓8年を含む小浜作園場で17年の歳月を過ごしている。その生家は、小浜の代々の廻船問屋の豪商・古河家の分家の素封家。水上勉氏の著作『古河力作の生涯』(単行本刊行は1973年)の冒頭に、歓喜山妙徳寺(福井県小浜市青井)と古河力作の墓について、以下のように、詳しい記述がある。

”青井岬の曲がり角から、小浜町へ降りる手前に、えぐれた谷があって、六呂谷とよばれている。谷の入口にいま火葬場が建っている(*現在は無し)。そこへ登る道の片側に、「妙徳寺参道」と彫字のある標石が、気をつけていなければ見すごすくらいの場所にかくれてある。自転車ものぼれないぐらいの坂道である。歓喜山妙徳寺、あるいは文殊峯と町の人びとがよぶ曹洞宗永平寺派の古寺へゆく道である。この寺の墓場に古河力作さんは眠っている。(中略)。妙徳寺は正確には歓喜山といい、地籍は「青井」にぞくしているのである。背山を青井山といい、いまは新国道が岬にトンネルをつくって貫通しているけれど、私(水上勉氏)や力作さんが少年だった頃は、まだ青井山が海へなだれ落ちる端を曲がらねば、小浜町へも、私の村へもゆけなかった。”

”遺言状でも、力作さんは『非墳墓論者ですから墓はつくらないで下さい』といい、そんな金があるのだったら、おいしいものを食べてください、と社会主義者らしく、父慎一氏に死後のことについて遺している、それにもかかわらず、遺族の方たちが、生家からかなり離れた青井山の中腹の寺にひっそりと墓をつくって葬っているのは何故だろう。(中略)。墓はいらぬといいのこして処刑された人は、「西津の主義者」といわれ、その名さえいうことをはばかられたが、やはり郷土の一角にお父さんに抱かれて眠っているのである。墓は親子一基である。”

”寺へ至る道は急坂道の淋しい一本道だが、ふりかえると美しい紫紺の海がみえる。路端は春ならば、いくたの野草が咲き、山には小ぶりの桜も咲く。冬は落葉樹の混じった松の下道に雪がつもり、山門に至る道は風光絶佳だ。妙徳寺は、禅宗寺であるため町なかの真宗寺のような明るさはない。山かげにぽつんとかくれるようにしてしずまる禅道場である。墓地は庫裡の手前の土蔵よこをまわって、寺の裏側に面した小高い丘にあるが、墓石の林立する中央のあたりに、「三島氏」と彫られた墓石群がみえる。そこの一基に、「応声院慎道全逸居士」と戒名のあるわきに、「還源院行山恵力信士」と小さく彫られている。応声院は父慎一氏であり、大正5年(1916)8月22日没とある。還源院は力作さんのことで、明治44年(1911)1月24日没とある。処刑の日である。”

尚、古河力作の遺骨の所在についても、『古河力作の生涯』で詳しく記されている。「大逆事件」といわれる天皇暗殺謀議の罪で明治44年(1911)1月24日に、東京市ヶ谷富久町の東京監獄で死刑を執行され、3日後の1月27日、東京・下落合の火葬場で荼毘に付される。堺枯川(利彦、1871年~1933年)たちが、大逆事件の処刑者の遺骸保護につとめ、古河力作の父・慎一が堺枯川の家に骨箱を受け取りに来て渡される。そして、古河慎一は、この遺骨を、それから二つ月めの、1911年3月24日に、東京市牛込区市ヶ谷富久町12番地、臨済宗妙心寺派の瑞光山道林寺に預け、住職はこれを本堂に安置して墓地の一隅に木の墓標を立てるが、その後、この墓地は移転していまい、古河力作の遺骨の行方がわからないままになった経緯が述べられている。*関連記事「東京監獄市ヶ谷刑務所 刑死者慰霊塔と古河力作刑死の大逆事件」

歓喜山妙徳寺(福井県小浜市青井)にある古河力作の墓というのは、父慎一との親子一基で、力作の遺骨は無く、大正5年(1916)8月22日に、父慎一が物故し、慎一の遺骨を菩提寺の曹洞宗永平寺派の歓喜山妙徳寺に埋葬する際、墓石をつくり、力作の戒名もあわせ刻むことになった。古河力作の戒名は、下落合火葬場で荼毘に付された際、死刑引取人であった堺枯川氏が依頼したところの道林寺の住職・平松亮卿師がつけている。「古河力作の生涯」では、歓喜山妙徳寺(福井県小浜市青井)の「三島氏」と彫られた墓石群と書かれているが(今は「古河氏」と彫られた墓石群)、父慎一が古河姓を名乗ったのは明治の初め頃で、それまでは、小浜の西津地区の富豪・古河屋の分家の三島姓。古河力作の母・八尾(やを)は、小浜の廻船問屋の富豪・古河本家の出自。

<写真下:歓喜山妙徳寺(福井県小浜市青井)の門>(*2024年2月26日午前訪問撮影)
<写真下:歓喜山妙徳寺から入口の門への石段>(*2024年2月26日午前訪問撮影)

<写真下:歓喜山妙徳寺>(*2024年2月26日午前訪問撮影)

<写真下:歓喜山妙徳寺の向かって右奥の墓地群>(*2024年2月26日午前訪問撮影)

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