南越地域の伝承・伝説「蝉丸伝承と蝉丸の墓(福井県丹生郡越前町陶の谷<旧宮崎村地区>)

南越地域の伝承・伝説「蝉丸伝承と蝉丸の墓(福井県丹生郡越前町陶の谷<旧宮崎村地区>)

(写真上:蝉丸の墓(福井県丹生郡越前町陶の谷(すえのたに))<*2024年3月10日午前訪問撮影>

蝉丸の墓   四伝説物語(四)近代
越前町指定史跡 昭和51年(1976)11月3日指定 越前町教育委員会
長円形の塚状遺構上に3基の石塔が並び、うちひとつが、蝉丸の墓と伝えられる。蝉丸は平安時代の歌人で、盲目で和歌や琵琶を能くしたという。百人一首に採歌された「これやこの行くも帰るも別れては知るも知らぬも逢坂の関」が名高い。伝承では、諸国を流浪のはて当地にたどりついた蝉丸は、琵琶を奏で日々を過ごし、「私が死んだら七尾七谷(陶の谷:すえのたに)の真中に埋めてほしい」と遺言して亡くなったという。
本塔は、鎌倉時代から江戸時代にかけての、少なくとも7基の石塔と2点の部材から構成される。江戸時代の地誌に記述が認められないことから、明治時代になって倒壊した石塔群を再構築し、蝉丸伝承と結合したものと考えられる。
現代になり宮崎地区に伝わる「四伝説物語」から「宮崎物語」という舞踊が作られ、地域の人々に伝えられている。蝉丸伝承はこの「宮崎物語」の最後に登場する。
宮崎物語(四)
冬、木枯しに積む雪に 七尾七谷こだまして 弾くは盲の琵琶法師 音色優しき蝉丸の ああ ああ 苔むす墓の物語

「蝉丸の墓」は、越前町指定史跡<昭和51年(1976)11月3日に指定史跡>とあるが、この地区は、もともと福井県丹生郡宮崎村で、2005年2月1日に、宮崎村は、同じ福井県丹生郡の織田町、朝日町、越前町と合併して、越前町が誕生し宮崎村は廃止となっている。史跡指定は1976年になるが、合併誕生した越前町教育委員会による上記案内板設置の前は、宮崎村教育委員会による平成5年(1993)4月の案内板が設置されていた。

伝説 宮崎物語(四) 蝉丸の墓
琵琶の名人 蝉丸は諸国を流浪のはて越前に来て宮崎村にたどりついた。蝉丸の美しい琵琶の音はこの静かな村の野や山に鳴りひびいた。やがて病気になり村人に「私が死んだら七尾七谷の真中に埋めてくれ」と遺言して死んだ。その場所は、本村陶の谷の郷で、現在三基の五輪の塔が並んでおり、その中の一基が蝉丸の墓と伝えられている。 平成5年(1993)4月 宮崎村教育委員会

1889年(明治22年)4月1日、町村制の施行により、蚊谷寺村、広野村、八田村、樫津村、舟場村、八田新保村、円満村、上野村、宇須尾村、野村、寺村、大谷村、蝉口村、江波村、小曽原村、熊谷村及び古屋村の区域をもって、福井県丹生郡宮崎村が発足したが、この宮崎村を構成した17村のうち、上野、円満、野、宇佐尾、大谷、蝉口、寺の7村区域が、七尾七谷と呼ばれ、その真ん中に、蝉丸の墓があり、墓所の入口の区域は、蝉口と呼ばれている。尚、蝉丸の墓の場所から、すぐ近くの旧宮崎村の舟場には、蝉丸の池の伝説が残っている。

平安時代前期の歌人の蝉丸は、百人一首に採歌された「これやこの行くも帰るも別れては知るも知らぬも逢坂の関」が有名だが、生没年は不明で、出自についても、平家物語には「延喜(=醍醐天皇)第四の王子蟬丸」という記載があるるものの、そのほかにも、いろんな伝承があり、その実在についても、はっきりしたことは分かっていない。諸国を流浪の果て、越前に来て旧宮崎村地区の陶の谷にたどり着いた蝉丸は、一軒の農家に滞在中に病気になりこの地に果て、蝉丸の遺言どおりこの地域に蝉丸の墓が建てられたという、越前の旧宮崎村地区に伝わる蝉丸伝承と蝉丸の墓とされる石塔はあるものの、その没年や没地に関しても、『寺門伝記補録』や『関清水神社由緒書』には、天慶9年(946)9月24日に逢坂山(滋賀県大津市にある標高325mの山で、古代の頃には京都に入るための関所・逢坂関が設置)の麓で亡くなり関明神に合祀されたとされているが、はっきりしたことは不明。

蝉丸に関する史料はほとんど存在しないが、平安時代末期に成立した説話集「今昔物語集」には、59代・宇多天皇の第8皇子敦実親王の雑色を勤めたという記述があり、この今昔物語集では、琵琶の名手でもあった蝉丸は、のちに盲目となり、逢坂山の関近くの貧しい家で暮らしていたとされているが、後に、世阿弥の作とされる能「蝉丸」や、近松門左衛門の浄瑠璃「蝉丸」などが生まれている。

(写真下:蝉丸の墓に隣接する歌碑(福井県丹生郡越前町陶の谷)<*2024年3月10日午前訪問撮影>

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