南越地域と近代の戦争記憶
「嶺北忠霊場と忠霊塔」(福井県鯖江市水落町)

(写真上:「嶺北忠霊場」(福井県鯖江市水落町)、2023年7月28日午後訪問撮影)

嶺北忠霊場(福井県鯖江市水落町)の前身は、鯖江陸軍墓地で広く知られた場所。鯖江歩兵第36連隊は、明治39年(1906年)日露戦役の犠牲者を、戊辰の役、日清戦役の犠牲者とともに、当初は福井県丹生郡立待村牛尾経ヶ嶽に祀って陸軍墓地としたが、その後、射撃場、練兵場などの整備に伴い、大正3年(1914年)神明村水落の現在地に移転し(経ヶ岳南麓にあった陸軍墓地を現在の地に移し、そのあとに新たに経ヶ岳の麓に、もともと馬場より長泉寺山の北麓にかけて設けられていた射撃場を移転)、その後、昭和16年(1941年)ほぼ現在のように拡張整備された。

嶺北忠霊場の敷地は約4900坪あり、戦前は毎年秋、恒例の招魂祭が鳥羽の琵琶山練兵場で行われたが、式典の前には威儀を正した将兵が隊列を組んでこの陸軍墓地に参拝するのが恒例だった。陸軍墓地時代の霊場は当初上下2段で形成され、下段には兵と下士官の墓が、上段には将校の墓があって、日露戦争で戦死した三原連隊長の墓とその碑は特に大きかった。今は将校や兵の墓の場所は整備移動し横に並んでいる。終戦後の昭和24年(1949年)3月に、鯖江陸軍墓地は福井県遺族連合会に移管されて、嶺北忠霊場となり、昭和41年(1966年)3月、登記が完了し、昭和50年(1975年)には、終戦30周年の記念事業として広く植樹と庭園整備が施行されている。

嶺北忠霊場の正面に建つ、ひときわ大きな忠霊塔だが、この忠霊塔は、昭和16年(1941年)9月に「支那事変戦没者忠霊塔」として竣工(揮毫は当時の第9師団長吉住良輔中将)。忠霊塔奉賛会もこの時に生れている。終戦後、連合国軍総司令部(GHQ)が解体を企てたが、地元の人たちが手をつないでバリケードを張り、阻止したと伝わる。この「支那事変戦没者忠霊塔」は、日華事変に突入すると、鯖江連隊の戦線は更に拡大し、これに伴い悲しい犠牲者も又漸次増大し、ここに昭和14年(1939年)夏、支那事変戦没者合葬墓塔建設の議と陸軍墓地の拡張が議題となり、陸軍当局は之を地元村長に託し、地元の神明地区の女性たちを中心に建てられたもの。塔の前は、「忠霊塔」と大きく刻まれているが、塔の後は、「支那事変戦没者忠霊塔」と揮毫者の陸軍中将・吉住良輔の名が刻まれている。

この忠霊塔は、長年の風雪によって黒ずみ、内部も塗装がとれた部分が多くあったため、改修工事が県の補助を受けて福井県遺族連合会が進め、2022年7月25日に、記念式典が挙行された。この改修工事では外側を高圧洗浄し、内壁もきれいに塗り直し、内部にあった仏壇は撤去し、新たに「鎮魂」と彫られた球体のモニュメントを設置。内壁に置かれていた約四千個の骨つぼは、一つずつ汚れを拭き取っている。

(写真上:「嶺北忠霊場」内の忠霊塔(福井県鯖江市水落町)、2023年7月28日午後訪問撮影)

この正面の大きな忠霊塔に向って右側に、「上海事件陣没者合葬碑」、更にその右側に、「満州事変陣没者合葬碑」が建立されている。鯖江連隊が満州事変に参加し、上海事変に大挙して出征すると、悲しい犠牲者もまた続出し、昭和7年(1932年)12月には「上海事件陣没者合葬碑」(揮毫は当時の第9師団長、植田謙吉中将)が建てられ、昭和12年(1937年)5月には「満州事変陣没者合葬碑」(揮毫は当時の第9師団長、蓮沼蕃中将)が建立された。

この「上海事件陣没者合葬碑」「満州事変陣没者合葬碑」の向かって右側に、時系列的には更に遡るが、いずれも明治40年(1907年)3月10日に建てられた日露戦争の合葬碑が建ち、それぞれ碑文には、「明治37,8年戦役 戦死病没将校同相当官合葬碑」「明治37,8年戦役 戦死病没准士官合葬碑」「明治37,8年戦役 下士並軍属合葬碑」「明治37,8年戦役 兵卒並軍属合葬碑」と刻まれて、別々になっている。この日露戦争の合葬碑の建立が鯖江陸軍墓地のスタート。

その日露戦争の合葬碑の向かって右側に、日露戦争で明治37年(1904年)8月27日戦死した三原・第2代鯖江連隊長の墓と碑があり、墓には「陸軍少将正五位勲三等功三級、三原重雄之墓、明治37年8月27日戦死」と記され、別に三原連隊長の碑文を日下部東作氏が撰している。三原連隊長の墓と碑の更に向かって右側には、鯖江陸軍墓地時代の将校、下士官・兵の個人墓が広がっている。


(写真上:「嶺北忠霊場」内の合葬碑、三原連隊長の墓と碑、将校・下士官・兵の墓(福井県鯖江市水落町)、2023年7月28日午後訪問撮影)

また、この嶺北忠霊場(福井県鯖江市水落町)内には、2007年4月に福井県遺族会創立60周年平和祈念館が竣工し、その福井県平和祈念館の建物の向かって右側に、「父と母子の別れの像」(財団法人 福井県遺族連合会)が建立され、その志納者一覧の碑の裏面に「歩兵第三十六連隊歌」の全部の歌詞が刻まれた(鯖江市遺族連合会)。
(写真上:父と母子別れの像」2023年7月28日午後訪問撮影)

(写真上:福井県平和祈念館、嶺北忠霊場内、2023年7月28日午後訪問撮影)

尚、この嶺北忠霊場の周辺は、古来、山本之庄と言われ、北陸街道に面した交通の要所で、親鸞上人の後継者らがここに本坊を建立、火災に遭って文明年間(1475年)横越(現・福井県鯖江市横越町)に移るまでの240年間をこの地で布教している。この嶺北忠霊場のすぐ前の場所には、真宗源本山證誠寺遺跡の記念碑(昭和57年(1982年)3月吉日建立)が建てられている。

(写真下:「真宗源本山證誠寺遺跡」(「嶺北忠霊場」の前の敷地、福井県鯖江市水落町)、2023年7月28日午後訪問撮影)

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