南越地域の伝承・伝説「金井の首塚」(福井県鯖江市神明地区)

南越地域の伝承・伝説
「金井の首塚」(福井県鯖江市神明地区)

(写真下:神明社と境内の烏ヶ森社叢(福井県鯖江市水落町)<*2023年6月10日午前訪問撮影>

「金井の首塚」
”昔、金井谷五郎という武士がいて、天下の覇者になろうと志し、神明社に祈願して、千人の首級を供えることを誓った。
それからは樹木のうっそうとした山中に潜み、日ごと糺野を往来する者を斬って神前に供えた。たまたま由井民部之助正雪が諸国武者修行の途、この地に来て神明社に参詣した所、神前に首の供えてあるのを見て怪しんだ。これを見た金井谷五郎は刀を振るって由井正雪に躍りかかった。由井正雪はからだをかわし刀を抜いてしばらく応戦。勝負はなかなか尽きず、ついに刀を引いて互いに名を名乗り合った。由井正雪の名を聞いた金井谷五郎は大いに驚き、由井正雪に屈服し、それ以来、供え首を取り止めたという。
この首塚は神明社前の大鳥居の近くにあったというが、今はわからない。なお、金井谷五郎が血刀を洗ったという池は今の福井県鯖江市三六町にあったといわれている。”
<ー「鯖江市史 史料編・第1巻 民俗編」(1973年11月発行)ー>

(写真下:浮世絵師・豊原国周(1835-1900)の作品:真ん中の宇治常悦は由井正雪。右が金井谷五郎(金井半兵衛)役、左が丸橋忠弥役の役者似顔絵)


ここで登場する由井(由比)正雪(慶長10年(1605)?-慶安4年(1651)は、江戸時代前期の日本の軍学者で、徳川幕府転覆未遂事件の慶安の変(由井正雪の乱)の首謀者。出自は不明な点が多く、駿河国由比の染物屋の子、駿河国浅間宮ヶ崎説など諸説ある。江戸において軍学塾「張孔堂」を開き楠流軍学を旗本や浪人などに教える。慶安4(1651)年、同志の丸橋忠弥、金井半兵衛らと幕府転覆をはかったが、内通により事前に発覚、駿府茶町の旅宿で自害(慶安事件)。のち由井正雪の生涯と慶安事件は、江戸時代の実録本として流布し、河竹黙阿弥の歌舞伎「樟紀流花見幕張」(慶安太平記)の歌舞伎や浄瑠璃、講談などで人気を博してきた。

一方、金井半兵衛(?~慶安4年(1651年)、歌舞伎などでは金井谷五郎として知られる)は、長州藩毛利家の家臣の子として生まれたと言われるが、出自は定かでなく、由井正雪との出会いは、毛利家に出入りしていた丸橋忠弥(?~慶安4年(1651年))により推挙されて、由井正雪の門弟となり、由井正雪の門弟の中では、丸橋忠弥に次ぐ立場。その後、由井正雪の江戸、京都、大阪で事を興す徳川幕府転覆計画に加担。金井半兵衛は、大阪での計画の主将として、大阪市中を焼き討ちし、混乱に乗じて大阪城を占拠し籠城する手はずであった。しかし、実行前に計画が発覚したため金井半兵衛は潜伏したが、慶安4年(1651年)8月13日、大阪の天王寺勝鬘院の門前で自害。

尚、神明社境内の池脇に建立している燈篭は、徳川幕府初期の慶長13年(1608年)建立で、まさに、由井正雪や金井半兵衛(金井谷五郎)が生きた時代と変わらない時代に建立された文化財。

(写真下:神明社境内の神明社慶長の燈籠(福井県鯖江市水落町)<*2023年6月10日午前訪問撮影>

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