近江における北陸ゆかりの地
「正行院」(滋賀県高島市マキノ町海津)と加賀藩家老松平大弐自刃

(写真上:宮子山正行院(滋賀県高島市マキノ町海津)<*2023年6月14日午前訪問撮影>

正行院(しょうぎょういん) <寺門雨の案内板記載>
浄土宗京都知恩院の末寺で文明18年(1486)に創建され、往時町域内外に7ヵ所の末寺を持ちマキノ町における浄土宗の中心的寺院であった。境内には加賀藩士松平大弐の灰塚や顕彰碑がある。
松平大弐は加賀藩の家老で、幕末加賀藩最後の藩主前田慶寧の補佐役として京都御所守護にいたが、当時の尊皇攘夷、開国、公武合体等の思想が錯綜する中、前田慶寧の命により朝廷と長州藩(山口)との調停を行うべく東奔西走するがその功ならす禁門の変が勃発し、朝敵の汚名を受け帰藩の途中その一切の責任をかぶりこの正行院で自刃して果てた。
また、顕彰碑は大弐の至誠を称え海津村の有志により大正6年(1917年)に建立された。

(写真上:正行院境内の本堂脇の顕彰碑「贈従四位大貳松平君碑」(明治31年(1898)従四位を追贈) <*2023年6月14日午前訪問撮影>

松平大弐(まつだいら・だいに)(文政6年(1823)~元治元年(1864)8月11日)
元治元年(1864年)7月18日の禁門の変の際、以前より反幕的態度をとり長州藩に同情的であった加賀藩世子・前田慶寧は、宮中警護の任を放棄し、京都を離れ中立の立場を採り、京にいた加賀藩の兵を引き上げ金沢へ帰藩する途につく。元治賀ねん(1864)7月19日の午後、京を後にした加賀前田家世子、筑前守慶寧(よしやす)35歳は、大津に一泊したあと、当時、加賀藩の飛び地であった近江の海津(滋賀県高島市マキノ町海津)の願慶寺に入り、前田慶寧と行をともにした継嗣前田慶寧附の加賀藩家老は、京都詰家老の禄高4千石の松平大弐42歳。彼とその家来たちは、願慶寺のすぐ近くの正行院を宿舎とするが、海津から動けなくなっていた。

前田慶寧退京の飛報に接し最も愕然としたのが、その実の父で加賀藩第13世藩主の中納言前田斉泰で、国許で第一報を受けた1864年7月22日、家老の1人、長大隈守連恭に対し、その夜のうちに上京するよう書状をもって命じ、長連恭が家臣団545人とともに海津村に入り、藩主慶寧の意のあるところを伝えたのが7月27日。8月1日は公武合体派として知られる関白二条斉敬にあてて詫び状を送り、前田慶寧側近たちの罪を問うことを誓う。

前田慶寧は1864年8月11日、謹慎のため国許へ返されることになり、松平大弐が一切の責任を負い、同日(1864年8月11日)、正行院にて、家来の佐川良助の介錯で自刃する。8月18日に帰藩した前田慶寧は、ただちに金沢城の大手にある金谷御殿に幽閉され、前田慶寧に過激な尊皇攘夷思想を吹き込んだ者たちにも厳しい処断が下された(加賀藩の「元治の変」)。松平大弐の首級は検分のために金沢へ送られた後に、野田山墓地に埋葬。その後、墓は菩提寺の妙慶寺に改葬されている。

残念だったのは、正行院境内にあるという松平大弐灰塚をどうしても見たくて2023年6月14日、15日と連続で訪ねたが、寺の裏山の墓地は猿害がひどくて、電気棚が張り巡らされていて参拝できず。

琵琶湖の湖北にある港町、近江国高島郡の海津村といえば、北陸道および琵琶湖の水上交通の中継地として知られ、北国の大名たちは、出京する際には、この海津村に宿をとることも珍しくなく、諸大名の本陣は、真宗大谷派の梅霊山願慶寺になり、加賀前田家の定宿は、願慶寺のすぐ近くの浄土宗鎮西派に属する宮子山正行院。

(写真下:願慶寺(滋賀県高島市マキノ町海津) <*2023年6月14日午前訪問撮影>

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